2017 Fiscal Year Annual Research Report
南宋出版文化における中間層文人の編集と注釈に関する研究
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15J05278
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
甲斐 雄一 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 注釈 / 南宋文学 / 南宋出版文化 / 中間層文人 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度に当たる本年度は、本研究課題が想定した「中間層文人」という設定そのものを再考する必要があると考えたため、当初の研究対象である南宋期の蘇軾詩・杜甫詩の集注本が、編集に際してそのほとんどを依存した趙次公の注釈を対象として研究を進めた。そして、趙次公の注に、対象となる作品を読み解くための注釈から逸脱した内容が見られることに着目し、その特徴を整理・分析し、宋代の文化的・社会的背景と結びつけて考察していった。 例えば、杜甫詩への趙次公の注(以下、趙注と略称)には、客観的な読みを引き出そうというよりは、趙次公自身がどう読んだかに集中した、自己主張を有する注釈が見られる。こうした傾向は、「詩をどう読むか」が問題にされた北宋後期から南宋にかけての文化的・社会的風潮を背景とする。詩注にやや先んじる、詩をめぐる言説として詩話が挙げられるが、当時の詩話の発生と流行と比較して整理すれば、初期の詩話では“親しい友人との間で・面と向かって”行われていたものが、集詩話(先行する詩話を編集したもの)や詩注では“不特定多数の読者を対象として・テキストを媒介として”行われるようになった、と概括した。 また、上に述べた“不特定多数を対象とした”議論について、趙注に見える、自分と直接つながりのない誰かが注釈を読み、誤りを訂正してくれることを期待する発言を挙げて、詩にまつわる議論が、不特定多数に開かれていたことを示した。重要なのは、従来閉じられた交際圏(友人間の議論、師弟間の教授)にあった詩をめぐる言説が、“不特定多数の読者を対象として・テキストを媒介として”展開されたことである。その背景には当然、出版業の発展と版本の普及が想定される。つまり、詩の本文と同様に、詩話や注釈のような詩に関わる言説もまた、出版文化を背景にテキストを媒介として、不特定多数に向けて発信され、そして受容されたのである。
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Research Progress Status |
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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