2016 Fiscal Year Annual Research Report
衛星観測データのシナジー解析を活用した次世代型気候モデルの構築および改良
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15J05544
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
道端 拓朗 九州大学, 総合理工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 気候モデル / エアロゾル・雲・降水相互作用 / 衛星リモートセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
全球気候モデルが、エアロゾル・雲・降水相互作用プロセスに抱える不確実性の評価を、衛星観測データを用いて実施した。現状のモデルは、エアロゾルが雲・降水の微物理過程に与える効果を、観測事実よりも強く表現してしまう不確実性を抱えており、その本質的な原因が、モデル内における降水の取り扱いに起因することを示した。また、エアロゾルが雲・降水特性を変調するフィードバックは、微物理特性以外にも、熱力学的な条件や雲のタイプと強い相関を持つことが明らかになった。 上記で得られた気候モデルの不確実性を改善するため、鉛直1次元モデル(SCM)を用いて、モデルの雲・降水過程を改良・再構築する作業を実施した。雨の落下は、鉛直方向のCFL条件から厳密に制御し、サブグリッドスケールでの雨の分布も表現した。雨の質量および数濃度を予報変数とした、2 moment法で実装を行った。性能の検証のため感度実験を多数実施し、モデル内で仮定している雨の粒径分布や雲水から雨水への変換式、およびサブタイムステップの長さへの感度を調査した。新スキームの特徴の把握や性能確認が進んだため、SCMで開発したスキームを全球モデルへと実装を拡張した。 さらに、CloudSat衛星観測データの取得・整理作業を、前年度に引き続き実施した。CloudSat衛星搭載の雲レーダーは、雲粒・氷晶・降水・降雪の鉛直解像に特化しており、本研究課題においてモデル開発を進めるにあたり、その比較・検証に必要不可欠な材料となる。平成27年度までに、低層の水雲を対象とした、計5年分(2006年6月~2011年4月)のアーカイブが完了していたが、当該年度(平成28年度)はさらに氷雲および雪についてもパッケージ化を完了した。上記を利用し、平成29年度以降も継続して、モデル・観測の両面から研究を推進していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
鉛直1次元モデルを用いたことで、新しい雲・降水スキームの開発が効率的に進み、多数の感度実験を実施することができた。感度実験の結果から、サブタイムステップの長さや雨の粒径分布および雲水から雨水への変換式などに対する感度を把握できたため、全球モデルへ実装を拡張する際に、スムーズにパフォーマンスの検証を実施することができた。 当初の目標通り、開発した新しいスキームの導入により、エアロゾルの間接効果、とくに雲寿命効果の過大評価を低減することが可能になったほか、エアロゾルの摂動をキャンセルするプロセスが現れることが明らかになった。このように、雲寿命効果と逆センスにはたらく応答は、LESや雲解像モデルといったプロセスモデリングからは可能性が示唆されていたものの、気候モデルの枠組みで再現可能になることは、当初予期していなかった成果であり、今後の気候モデル開発に重要な示唆をもたらす結果であると期待される。 また、モデルの比較・検証のために用いる衛星観測データについても、氷雲および雪に関するデータの整理を当該年度内に完了した。これは、今後開発を推進する降雪のプロセスの性能検証に用いられる予定であるため、効率的な開発につながることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度内に、降水の予報変数化を完了した。一方で、降雪に関しては従来の診断変数のままとなっている。そのため、これらの相互作用を陽に考慮できるよう、降雪も予報変数として新たに導入し、降水と同様にサブタイムステップ内でこれらの相互作用を表現する仕様に改良する。また、新たに予報変数に加える降水・降雪を、放射計算へと結果を受け渡す実装作業を進める。 これまでに開発してきたスキームには、解像度を上げた際に計算不安定に陥ることがあり、原因解明に取り組む。また、数値計算の速度が上げるよう、ベクトル化など細かいプログラムの修正を実施する。 衛星観測データを用いてモデルの性能検証を行い、雲水・雲氷・降水・降雪の水平分布および鉛直分布を適切に再現できるよう、継続して改良を推進していく。
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Research Products
(6 results)