2015 Fiscal Year Annual Research Report
太陽電池用波長変換膜に適した長波長発光を示す高透明ポリイミドの材料設計と創製
Project/Area Number |
15J06206
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鹿末 健太 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ポリイミド / 発光 / Stokes shift / 励起状態分子内プロトン移動 / 室温燐光 / 重原子効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポリイミド (PI) は酸二無水物とジアミンとを組み合わせて合成される高分子で、高い耐熱性と力学的強度を有していることから、半導体産業や航空宇宙産業などで応用されている。本研究では、PIの薄膜の発光特性に注目し、太陽電池用波長変換膜への応用に適した可視域における高い透明性と大きなStokes shift (光吸収・発光波長の差) を示す発光特性を有するPI薄膜の開発を目的とした。PIにこれらの性能を付与するために、励起状態分子内プロトン移動 (ESIPT) 及び重原子効果に基づく室温燐光に着目した。本研究では、酸二無水物部に分子内水素結合を形成する水酸基及び重原子置換基 (臭素及びヨウ素) をそれぞれ導入した新規PIを合成し、薄膜状態における発光測定を行った。 水酸基を導入したPIは光照射によりESIPTを経由したStokes shiftの大きな (10,829 cm-1) 橙色発光を示した。さらに、このPI薄膜の光物理過程の詳細を追跡するために、超高速時間分解分光技術を有するCenter for Physical Sciences and Technology (リトアニア共和国) のGulbinas教授の研究室に短期滞在を行った。時間分解スペクトル測定を行った結果、このPI薄膜のESIPTは15ピコ秒以内で起こることが明らかとなり、またPI分子鎖の凝集体へのエネルギー移動によりESIPTが阻害されるという重要な知見を得ることができた。 一方、臭素及びヨウ素を導入したPIは重原子効果に基づく高効率な項間交差により、ともにStokes shiftの大きな (約10,000 cm-1) 橙色の室温燐光を示した。 以上のことから、PIの酸二無水物部に水酸基及び重原子置換基を導入することにより、Stokes shiftの大きな発光が得られることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の前半では、ESIPTを起こす水酸基を導入したPIについて検討を行った。PIは一般に有機溶媒に不溶であり希薄溶液を用いた発光測定が困難であるため、有機溶媒に可溶な低分子モデル化合物 (2013年度に検討) を用いてPIと比較検討することにより発光特性の帰属を行った。その結果、PI薄膜及びモデル化合物の溶液はStokes shiftの大きなESIPT発光を示すことが明らかになった。PI薄膜については励起状態のエネルギーが一部凝集体にエネルギー移動を起こすために、モデル化合物の溶液中よりもESIPTが起こりにくくなることも明らかになった。 本年度の後半では、室温燐光を示す重原子置換基を導入したPIについて検討を行った。臭素及びヨウ素を有するPI及びそれぞれのモデル化合物を新たに合成し、発光特性の解明を試みた。その結果、PI薄膜及びモデル化合物の溶液はStokes shiftの大きな室温燐光を示すことが明らかになった。また、大気中の酸素がPI薄膜の燐光特性に及ぼす影響を調査するために、真空チャンバーを用いた真空条件下での発光測定を行ったところ、大気中ではナノ秒単位の発光寿命が真空条件下ではミリ秒以上の値を示すことが明らかになった。 以上のように、本年度の研究は交付申請書に記載した研究計画に沿っておおむね順調に進展しており、期待通りの成果が得られていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度で得られたESIPT及び室温燐光を示すPI薄膜はStokes shiftの大きな発光特性を有しているが、PI分子鎖の凝集体が有する可視吸収により薄膜が強い着色を呈している。発光性PI薄膜の太陽電池用波長変換膜への応用については、大きなStokes shiftを示す発光特性に加え、可視域における高い光透過性が強く望まれる。そこで来年度からは、PI分子鎖の凝集体形成が抑制された無色透明な薄膜を得るために、酸二無水物部またはジアミン部への立体障害導入の検討を行う予定である。現在、発光性PIのジアミン部としては直線的で立体障害の小さなものが主に用いられていたが、メチル基やトリフルオロメチル基を側鎖に有するジアミンを用いることで分子鎖間距離が大きくなり凝集体形成が抑制できると期待される。また、前年度で得られた発光性PIの酸二無水物部としては平面性が高く分子鎖のスタッキングにより凝集体が形成しやすいピロメリット酸二無水物構造を用いていたが、内部回転可能なビフェニル酸二無水物構造に変えることで凝集体形成が抑制できると期待される。 以上の検討を終えた上で、それぞれのPI薄膜について太陽光を模したキセノンランプを用いた発光測定を行い、実際の波長変換膜としての性能評価を行う。また、熱処理温度 (イミド化温度) や膜厚の異なるPI薄膜も同時に特性評価を行い、製膜条件が波長変換特性に及ぼす影響についても考察する。
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Research Products
(7 results)