2016 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫脳情報処理に基づく状況依存的匂い源探索行動戦略の同定と再構成
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15J06227
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
志垣 俊介 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 匂い源探索 / Lateral Accessory Lobe / カイコガ / 生物模倣型ロボット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,化学感覚を用いた空間認知の工学的実現を目指しており,カイコガ雄成虫の性フェロモン源探索行動を主な計測対象とし,その状況依存的な行動選択過程の解明とモデル化に取り組んでいる.平成28年度は,研究計画に沿って,平成27年度で実施したカイコガ微小脳と行動の同時計測を引き続き行い,その連関の解析を行った. カイコガの匂い源探索行動は直進行動と回転行動の二つに大別できる.この行動パターンは脳内のLateral Accessory Lobe (LAL)領域により生成しており,LALの電気生理応答を行動中のカイコガから同時に計測した.このLALの神経発火変化と行動の関係性についてFuzzy理論を用いて解析した結果,カイコガは匂い源探索の初期と終期では匂い情報の活用の仕方に違いがあることが分かった.この傾向を定式化し,匂い源探索への有効性を仮想空間上のシミュレーションと地上走行型ロボットに実装し,検証した.地上走行型ロボットでの実験は,風洞のような整った空気の流れの実験フィールドではなく,送風機等により気流を複雑にかき乱した環境で実施した.その結果,シミュレーションと地上走行型ロボットでの匂い源探索実験の両方で,匂い刺激に対して常に一定の反応を示す従来のカイコガの匂い源探索アルゴリズムに比べ,探索の過程で匂い刺激に対する行動応答変化があるアルゴリズムの方が探索性能に向上がみられた.このことから,カイコガは常に同じ行動を繰り返し行っているのではなく,状況に応じて適切に行動を選択しているのではないかという基礎的なデータを得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究では,平成27年度に構築した実験系と手法を用いて,観測対象生物(昆虫)の脳神経活動と行動の同時計測実験を実施し,その関係性を解明した.実験対象生物はカイコガ雄成虫個体で,カイコガの匂い源探索行動は匂い情報を活用する直進行動(サージ)と左右転向しながら匂い情報を探索するジグザグ行動の二つに大別できる.それらの行動パターンを生成しているといわれている脳部位は,生物学の知見からわかっている.しかし,これまで神経活動量変化と行動は別々に計測・解析されているため,状況依存的な行動選択過程の有無を確認することは困難である. そこで本年度は,匂い源探索中の脳神経活動と行動を同時に計測する実験を実施することで,その関係性解明に取り組んだ.その結果,匂い刺激の受容頻度に応じてサージ行動の選択過程に変化があることが示唆された.生物実験で得られた傾向を定式化し,シミュレーションと地上走行型ロボットを用いて検証した.その結果,匂い源との距離をつめるサージ行動の選択過程に時変性があることで,探索成功率が向上し,状況依存的な行動動特性についての知見獲得を進めることができた.次年度は,匂い源探索における嗅覚情報以外の複数感覚が状況依存的な行動選択過程に及ぼす影響の解明とモデル化を行う.また,実際の災害現場を視野に入れ,飛行型ロボットへアルゴリズムを再構築し,地上と空中での匂い源探索問題の相違点を明確化し,より多自由度なシステムへの結実を目指す.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では,計測対象のカイコガが効率的な匂い源探索のために嗅覚以外の複数感覚をどのように統合しているかを解析し,モデル化を行う.また,工学的手法を用いた実際的な匂い源探索実現のために人工物へのアルゴリズムの再構築に取り組む.具体的には,嗅覚刺激と視覚刺激を与えたときの行動応答の変化を神経応答と同時に観測し,カイコガの匂い源探索行動戦略をモデル化・実装する.本研究において注目しているのは,一連の匂い源探索過程であり,探索の段階に応じて行動戦略が変化することが示唆されている.実験対象であるカイコガにおいては,前年度の脳―行動同時計測実験結果から匂い刺激受容頻度に応じて匂い情報を活用する行動の選択性に動特性が見られた.このことは,匂い情報が過多となる探索の終期に嗅覚情報ではなく匂い源であるカイコガ雌を視覚情報により捕捉するため,感覚器の優先順位を切替えている可能性が示唆された.このことから,実験系を拡張し,嗅覚と視覚刺激を与えた脳―行動同時計測実験を実施し,モデル化する.また,提案するアルゴリズムの有効性を判定するために,アルゴリズムを小型な飛行型ロボットに実装し,探索実験を実施する. 以上により研究目標を達成する計画である.
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Research Products
(12 results)