2015 Fiscal Year Annual Research Report
極限環境生物由来ヘムタンパク質の構造および機能解明
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15J06345
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
藤井 創太郎 広島大学, 生物圏科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | X線結晶構造 / 変異導入 / ヘム蛋白質 / RNA-seq / ヘモグロビン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「極限環境生物由来ヘム蛋白質の構造および機能解明」を目的とする。好熱菌由来シトクロムcプライムや、酸性ユスリカ幼虫由来ヘモグロビン等のガス結合ヘム蛋白質を対象とし、ヘム蛋白質の安定な構造や二原子ガス結合機能が由来する生物の生育環境に応じてどのように変化しているのかを調べ、蛋白質レベルで生物の環境適応性の解明を目指した。 好熱菌由来シトクロムcプライムに関して、X線結晶構造解析によって1.89Åの分解能で構造を決定した。常温菌由来の相同蛋白質と比較すると、相互作用がヘム周辺およびサブユニット間で多くなっている特徴を見出した。好熱菌由来シトクロムcプライムは非常に安定性が高いが、常温菌由来のものにアミノ酸配列近づけた変異体を作製して、安定性を大きく下げることに成功た。なお安定性の測定には円偏向二色性スペクトルの温度変化を用いた。好熱菌由来シトクロムcプライムが高温環境で機能できるためのメカニズムを解明した。本研究結果を踏まえ、日本農芸化学会中四国支部第43回講演会等の学会にて発表を行った。 酸性ユスリカ由来ヘモグロビンに関して、1個体あたり20種類以上あるヘモグロビン遺伝子を同定する必要があった。pH2とpH7でユスリカを生育させ、全RNAを抽出した。mRNAを用いた次世代シーケンサーによって、全ての遺伝子の発現量の変化を観測した。中でも、F型ATPaseやクチクラ層蛋白質、GABA合成酵素等が耐酸性に寄与することを明らかにした。同時にヘモグロビン遺伝子の配列の同定と、酸性環境で発現量が増加するヘモグロビン遺伝子を同定した。現在この遺伝子配列をもとに大腸菌での異種発現系を構築しており、蛋白質が調製でき次第、ガス結合に伴う吸収スペクトル変化を様々な溶媒条件で測定することで、酸性環境適応に寄与するヘモグロビンを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「PHCPのX線結晶構造解析と変異体解析」 大阪大学・大久保忠恭教授のご協力のもと、X線回折実験によりPHCPの立体構造を決定した。PHCPとAVCPの立体構造を比較することで、安定化に大きく寄与するアミノ酸残基を推定し、変異導入実験によりこれを証明した。以上の研究結果を、申請者が第一著者である査読付き原著論文として執筆中である。また、低温菌Shewanella livingstonensisや他の常温菌Shewanella amazonensis由来シトクロムc′ (SLCP、SACP)の安定性を明らかにし、その変性温度が菌の生育温度と相関することを見いだした。この結果を、第二著者として査読付き原著論文として発表した(Kato, Fujii et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 2015)。 「酸性環境に適応したヘモグロビンの探索」 広島大学・河合幸一郎教授のご協力のもと、酸性ユスリカ幼虫をpH 2 およびpH 7の環境で飼育した。第 4齢の幼虫から全RNAを抽出し,mRNA次世代シーケシングによってpH 2で特異的に発現する遺伝子を探索した。34,964個の遺伝子を同定し、1,208個の遺伝子がpH 2で発現量が増加することを見いだした。以上の研究結果を、申請者が第一著者である査読付き原著論文として執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
PHCPのX線結晶構造および変異導入解析のデータを踏まえ、国際雑誌「J. Biol. Chem.」への投稿を行う。また、変異導入によってそのダイマー構造に変化があるかどうか、超遠心分析等によってそのダイマー形成状態を確認する。 RNA-seqによって同定した遺伝子のうち、21種類のヘモグロビン遺伝子配列を明らかにした。この配列を元に発現用ベクターを作製し、大腸菌での発現系を構築している。蛋白質が調製でき次第、円偏光二色性スペクトル変化による安定性測定や、吸収スペクトル変化によるO2親和性測定を行う。 また、これらヘム蛋白質を用いてNOセンサー蛋白質を設計する。案として、AVCPのN末端にCFP(水色蛍光蛋白質)を、C末端にYFP(黄色蛍光蛋白質)を融合した蛋白質を考案している。AVCPがダイマー状態の時、436 nmの励起波長でYFPを励起すると、FRETによってCFPに励起エネルギーが移り、535 nmの波長で蛍光を発する。AVCPがNOを結合してモノマーになるとき、近くにCFPがないのでFRETが起こらず、480 nmの蛍光を発すると期待される。その他、AVCPのサブユニット同士を鎖長の長いリンカーペプチドで連結し、その両末端にCFPとYFPを融合した蛋白質を考案している。これら遺伝子のクローニングと大腸菌での発現系構築を行う。
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Research Products
(6 results)