2016 Fiscal Year Annual Research Report
西部タンザニア、ウガラ地域のミオンボ疎開林における人間活動と野生動物の関係
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15J06368
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯田 恵理子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ウガラ地域 / ミオンボ疎開林 / 人間活動 / 哺乳類 / 牧畜活動 / 水場 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンザニア西部・ウガラ地域のミオンボ乾燥疎開林帯における人間活動と哺乳動物の環境利用の関係について、2011年から2015年までの分析結果まとめ国内外の学会やシンポジウムにおいて発表を行った。国内外の野生動物や牧畜民についての研究者の方々と意見交換をすることができた。近年、ウガラでは密伐、密猟、蜂蜜採集、家畜放牧など人間の往来が増えており、こうした活動が疎開林内の生態環境に与える影響が懸念されている。こうした人間活動の中でもとくに、ここ数年での疎開林内における牧畜活動の活発化について着目して分析を行った。本研究の成果は、農耕地、放牧地、野生動物の生息地としての土地の競合という現代アフリカが抱える大きな課題について貴重な示唆をもたらすだろう。 2016年9~12月にウガラ地域において、ハイラックスや中大型哺乳動物を主な対象として調査をおこなった。同地においては、チンパンジー以外の哺乳動物に関する詳細な研究は少ないため、こうした動物相に関する継続的な研究はこの地域の生態系を理解するのに役立つ資料となると考える。2016年の調査では、これまではあまり見られなかった人の往来の激しい地域において、大型哺乳動物の痕跡が頻繁にみられた。このことから、大型哺乳動物の行動域が大きく変化してきていることが予想される。2016年はタンザニア西部において雨期入りが遅れており、調査域内の川もほとんど干上がっていた。水場と行動域の関係についてさらに分析を進めたい。今後、環境と人間活動の要因の観点から、哺乳動物の行動域についてさらに詳細な調査、分析を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウガラは現在、森林保護区に指定されており人間活動は制限されているが、人と会わない日がないほどに人との遭遇頻度は増えている。継続的な調査の結果から、1日あたりの人との平均遭遇回数は年ごとに高まっていることが明らかとなった。人の活動内容の内訳をみると、2011年ころでは伐採が全体の75%を占めていたが、2015年ではその比率は大きく変わり全体の62%を牧畜が占めるようになったことが明らかになった。人の移動手段をみると2011年にはほとんど確認されなかったトラックやバイクといった乗り物の利用が増えていた。人々への聞き取り調査から、2014年から2015年の1年間で疎開林内の道が開拓・認知され、情報共有が進んでいることが分かった。異なる州から人がやってくるようになっていた。以上の事からウガラは地域住民だけでなく遠くの地域の人々にとっても身近な土地になってきたことが明らかとなった。 哺乳動物の推定密度に関する調査では人間活動がより活発になった2015年に中型・小型草食動物が増えたという結果になった。この点については、データ不十分であるので単に生息数が増えているとは言い切れない。しかし、ウガラ奥地であるブカライにおいて大規模放牧が行われているとの情報を得ていることから、そうした影響でこれまで奥地に生息していた哺乳動物が行動域を変え調査域における哺乳動物の密度が高まった可能性も考えられた。そこで、ブカライでの現地調査を試みた。しかし、現在はブカライへ続く道が使われておらず塞がってしまっておりアクセスできなかった。さらに、聞き取り調査から過去に用いられていたブカライという谷の名前を知る地域住民が少なくなってきていることから情報収集が思うように捗らないこともあった。今後、現地調査に加え、森林局や他の研究者と密に連絡を取り合うことでさらなるデータを集めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、ウガラの疎開林内において哺乳動物の分布と密度調査を行うことで継続的なデータを収集していく予定である。大型哺乳動物の生息域が変容しつつあることが示唆されつつあるので、特にこの点に着目して調査を行いたい。また、2016年は雨季入りが遅れており、水場の確保の問題から、人も哺乳動物も、これまでの年とは違った動きを見せていた。次の渡航では、森林局を訪れ、周辺地域の雨量データの情報を収集したい。 人間活動についても、疎開林内において合法・違法を問わずにその実態把握を行う。当初は、疎開林内において牛の放牧が見られる地域と見られない地域において、哺乳動物の生息状況の比較調査を行う予定だったが、現在ではどこへいっても牛の痕跡が見られ、ウガラにおいて牛の入っていない地域を見つける方が難しくなった。また、哺乳動物の生息状況と牧畜民の活動状況の指標になると考えていたツエツエバエは、ここ数年でほとんど姿を消してしまった。新しい環境評価の指標となる方法を考え試みたい。 これまでの分析結果に加え、今年度の疎開林内での集中調査の結果を合わせ、分析することで論文としてまとめる予定である。
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