2016 Fiscal Year Annual Research Report
終脳発生の進化的多様性の起源解明に向けた比較オミックス解析
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15J06414
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上坂 将弘 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 進化 / 発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、脊椎動物における終脳発生の進化的多様性の理解とその起源の解明を目的としている。生物の様々な機能を司る終脳の発生は、各系統に特徴的な形態と脳機能が密接に関わり合いながら進行する。終脳の形態が脳機能の多様性を制限している可能性も考えられており、終脳形態の進化的多様性を探ることは非常に興味深い。 これまで終脳発生に従った進化的多様性の変化は、特定の形態的違いについての言及が主であったが、ゲノム・遺伝子制御・遺伝子発現を跨いだ多様性を理解しようとする研究は少なかった。本研究では、遺伝子発現プロファイルの多様性と、それをもたらす遺伝子発現制御の多様性を調べることにより課題に取り組んでいる。今年度では、複数の脊椎動物の胚において活性化されている遺伝子発現領域の網羅的解析を進めた。同時に、生物種間における遺伝子発現領域の違いから発現に生物種間差が生じたと考えられる遺伝子を同定する解析パイプラインの開発を進めた。 本年度では、脊椎動物間の発生過程における遺伝子発現プロファイルの多様性をゲノム配列の違いから説明するために、各生物種の発生段階ごとにATAC-seqを行った。ATAC-seqは非常に少ない細胞数からオープンクロマチンランドスケープを決定できるため、早い発生段階のサンプルも対象にできる。本研究課題にATAC-seqを導入するにあたり、必要な細胞数やライブラリサイズなどの条件を検討した。その結果、複数の生物種において、ゲノムワイドなオープンクロマチン状態は非常に再現性高く決定できるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度では、発生過程の中で機能している遺伝子発現領域を網羅的に同定するためにATAC-seq法を導入した。ATAC-seqは、活性化したトランスポゾンを利用することで、クロマチン構造が開いている領域を選択的に増幅しシークエンスする手法である。クロマチン構造が開いている領域は機能的に活性化しているゲノム領域を反映しているため、この手法によりサンプルのゲノムの中で機能している遺伝子制御領域を決定することができる。本目的のためにATAC-seqを利用するにあたり、いくつかのステップにおいて条件検討を行う必要が生じた。当初は、ATAC-seqデータの再現性が低い問題があったものの、最終的には必要な細胞数やライブラリ増幅などにおいて、最適な条件を決定し、高い再現性をもってATAC-seqデータを得ることができるようになった。ATAC-seqのデータ解析についても進展があり、クオリティチェックや、アダプタートリミング、ゲノムへのマッピング、オープンクロマチン領域同定のためのパイプラインの開発を進めた。本課題で得られたATAC-seqのデータは、シグナルに対するノイズの割合も低い点から極めて質の高いものと考えられる。現在、マウス、メダカ、ニワトリそれぞれの発生過程におけるATAC-seqデータを得ており(生物学的反復を含む)、各サンプルにおける活性化している遺伝子制御領域の決定に向けて解析を進めている。並行して、生物種間で発生過程で発現動態に違いが見られ、かつ終脳形態や機能に関わる遺伝子を抽出し、対応する遺伝子制御領域の生物種間差との相関を調べるための手法の開発を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、遺伝子制御領域のうち、発生過程において活性化状態に生物種間で違いが見られるものを決定する。また、脊椎動物種の発生過程における遺伝子発現プロファイルから、終脳形態・機能に関与し、かつ遺伝子発現動態に生物種間で違いが見られるものを抽出する。それらの遺伝子の転写開始点近傍領域において、生物種特異的な機能的遺伝子発現制御領域を持つものを同定する予定である。 当初の研究計画では、発生過程において似たような遺伝子発現動態を示す遺伝子を「発生モジュール」として扱い、生物学的な機能と対応付ける予定だった。しかし、遺伝子発現動態のみから発生モジュールを決定するのは非常に困難であり、複数の遺伝子のノックダウンや過剰発現実験による全遺伝子の応答を見る必要がある。このような介入実験は非常に多くの時間と予算が必要となるため、本課題においては発生モジュール単位の解析より、個々の遺伝子単位での解析を優先させ、遺伝子発現の生物種間差とそれをもたらしたゲノム変化を調べることに重点を置く。次年度においては、本年度においてATAC-seqを行えていないサンプルについて、引き続き実験を行う。今後は、各生物種において同定した遺伝子制御領域が他の生物種間でも存在しているかを調べるための比較ゲノム解析の開発を進める予定である。
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Research Products
(1 results)