2015 Fiscal Year Annual Research Report
水田における黒雲母の還元風化に伴うセシウム放出リスクの解明
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15J06569
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
小笠原 翔 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / 安定同位体セシウム / 福島 / 黒雲母 / 花崗閃緑岩 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島原発事故に由来する放射性セシウム(RCs)は土壌中の雲母鉱物に強く固定されていると考えられてきたが、風化抵抗性の弱い黒雲母を含む花崗岩土壌では比較的容易にRCsが放出される可能性がある。 そこで花崗閃緑岩から発達した土壌断面を福島県福島市の森林で採取し、化学抽出によるRCsの放出性を調べることにした。RCsの分析は測定に十分な線量が確保できたA層の土壌のみで行った。A層土壌の粒径別RCs濃度を測定したところ、RCsは粘土画分に全体の76 %、シルト画分に15 %、細砂画分に9 %、粗砂画分に0.08 %存在しており、RCsの大部分が粘土画分に吸着されていることが確認された。 続いて、採取した土壌断面の各層位の試料に対し、交換態抽出→熱硝酸抽出→強酸抽出→残渣全分解によるRCsの連続抽出を行った。RCsの放出性の比較として、土壌中に存在する安定同位体セシウム(Cs-133)の放出性の分析も行った。各抽出法によるA層でのRCs抽出率は熱硝酸抽出で28 %、強酸抽出で19 %、残渣画分で53 %と半分以上が残渣画分に含まれていたのに対し、A層でのCs-133の抽出率は熱硝酸抽出で36 %、強酸抽出で40 %、残渣画分で24 %と大部分が酸で抽出される画分であった。今回の抽出法では、Cs-133をわずかに含む長石の溶解は微少だったため、Cs-133も大部分が雲母に吸着されていたと判断された。また一方で、両者の抽出率が異なることからRCsとCs-133の吸着状態は異なることが示唆された。 そこで、粒径画分別のCs-133の分配率を分析したところ, 粘土画分に53 %、シルトよりも粗い画分に47 %とRCsの粒径分布とは異なる傾向が見られた。粗粒画分ほど雲母の変性は弱く、Cs-133の吸着力も弱いと考えられることから、RCsとCs-133の抽出率の違いは両者の粒径分布の違いによるものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
花崗岩土壌の放射性セシウム(RCs)放出性について基礎的な知見を得るため、外部からの異質の粒子の混入が少ない森林土壌について実験を始め、土壌の粒径別、形態別の詳細な分析により、福島県内の花崗岩から生成した土壌の特徴について今後の研究に有用な知見を得ることができた。また、これまでの「RCsと比べ安定同位体セシウム(Cs-133)は土壌中でより安定化した状態で存在している」という定説とは異なる場合があることを示すことができ、風化の弱い黒雲母粒子が原因であることを示唆することができた。 一方で、昨年は国際土壌年ということで、多くの土壌学関係のイベントが開催され、参加者または運営者としてイベントに関わることが多かった。関連して、それらの参加記や開催報告などの執筆も重なってしまい、研究に直接関わる事柄に割ける時間が減ってしまったことは否めない。しかしながら、これらのイベントへの参加によって、自らの研究対象の土壌を他種の土壌との比較から相対的に位置づけることができ、間接的ではあるが、研究対象の土壌への理解を深めることができたと感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
黒雲母は比較的不安定な構造を持ち、陽イオンをあまり強く保持することはできないが、鉱物構造内の鉄の酸化反応によって、より安定で、陽イオンを強く保持できる構造に変化することが知られている。当初、酸化的な条件の土壌に存在する黒雲母は、放射性セシウム(RCs)を放出しにくい構造に大部分変化しているだろうと考え、そのため、変化を遅らせる要因として水田の還元的な環境に注目した。しかしながら、酸化的な条件の森林土壌においても、黒雲母は不安定な構造を維持しており、それは最も変性の程度が大きいと考えられる粘土画分においても当てはまった。よって、花崗岩土壌における土地管理の影響よりも、花崗岩土壌が持つRCs放出リスクそのものを明らかにした方が良いと考えた。 今後は、三八面体型雲母を含む花崗岩土壌と、二八面体型雲母が卓越する堆積岩土壌の二種の比較を中心に行っていく。福島県内の農耕地を多地点でサンプリングし、濃度の異なる酸による化学抽出実験から二種の土壌におけるRCsの存在形態を解明する。さらに、これらの試料から数地点ずつピックアップして作物栽培の培地とし、作物のRCs吸収率が花崗岩土壌と堆積岩土壌で有意に異なるのかを明らかにし、作物が吸収したRCs量と化学抽出画分との量的関係について調べる。 また、黒雲母はRCsの担体としてだけでなく、安定同位体セシウム(Cs-133)を多く、かつ可給度の高い状態で持つため、Cs-133の給源としても重要である。Cs-133はRCsの土壌-作物間移行のトレーサーとして注目されているが、粗粒画分の黒雲母はRCs保持量が少なくCs-133の供給量は多いと考えられ、Cs-133とRCsの関係を乱す要因としても重要である可能性がある。よって、以上の実験ではCs-133の挙動も同時に調べ、Cs-133によるRCs移行率の予測の精緻化に向けて有用な知見も提供していきたいと考えている。
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Research Products
(1 results)