2016 Fiscal Year Annual Research Report
水田における黒雲母の還元風化に伴うセシウム放出リスクの解明
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15J06569
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
小笠原 翔 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / 雲母鉱物 / カリウム / 黒雲母 / 福島 / 土壌 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島原発事故以降環境中での挙動が問題となっている放射性セシウム(RCs)は土壌中の雲母系鉱物に強く吸着されることが知られているが、雲母系鉱物には不安定な構造の黒雲母、安定な構造のイライトの主に二種類が存在する。土壌中にどちらの種類が卓越するのかは主に土壌の材料となった岩石の種類に依存する。地質学的に、RCs汚染が問題となっている福島県東部の土壌においては、浜通りでイライトが、中通りで黒雲母が卓越すると予想されるものの、これら雲母系鉱物種とRCsの保持力および作物移行リスクの関係はこれまで明らかになっていない。本研究では雲母系鉱物組成の異なる2種類の土壌を用いた化学抽出実験や、RCs汚染土壌を培地とした植物栽培試験により、雲母系鉱物の違いがRCsの挙動に与える影響を明らかにすることを目指した。 2016年度は1)採取済みである京都府の非汚染土壌を用いて、人為的に添加したCs-137の 1 M酢酸アンモニウムによる脱着率の測定および、元々土壌中に存在し、安定化したRCsの指標と見なせる安定同位体Cs(Cs-133)の形態別分析、すなわち異なる濃度の酸による抽出率の測定を行った。加えて、福島県内の汚染土を採取し、2)これらを培地とした水稲のポット栽培によるCs移行率と、RCsの作物移行を抑制する土壌のカリウム(K)レベル(交換態、非交換態)の分析を行った。 以上の実験から、1)人為的に添加したCs-137および元々土壌に存在するCs-133の抽出されやすさは両方のCsにおいて黒雲母を多く含む土壌で有意に高く、黒雲母のCs保持力の低さが示された一方で、2)水稲へのCs移行については、黒雲母はイライトよりも利用しやすい形態でKを含んでいるため、黒雲母を多く含む土壌においてはむしろ抑制的であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画からは研究のアプローチを変更したものの、土壌中の雲母系鉱物種と放射性セシウムの環境動態の関係について、新奇性の高いデータをいくつか得ることができ、当初の計画以上に研究を進められていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の実験に供試した土壌のうち、雲母系鉱物組成の分析を終えられていないものがいくつかあるため、解析を急ぐ。栽培試験について、農作物への移行は土壌のCs保持能(放射性セシウム捕捉ポテンシャル, RIP)によっても一部規定されるとの報告もあることから、供試土壌の栽培前後の試料についてRIPの測定を行う。また、福島県の汚染土壌においてもRCsおよびCs-133, Rb, Kの形態別分析を行う予定である。測定する形態としては熱硝酸抽出態(1 M 硝酸, 加熱), 強酸抽出態(濃硝酸, 加熱), 残渣態(フッ化水素+過塩素酸, 加熱)である。汚染土壌の試料数としては約40点を予定しており、昨年度中に採取済みである。 以上の研究成果について、スイス・チューリッヒで開催される微量元素に関する国際会議(ICOBTE2017)と日本土壌肥料学会仙台大会にて発表し、最終的には論文化する予定である。
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