2016 Fiscal Year Annual Research Report
Iron roof structure of the gothic architectures in the nineteenth century France
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15J06629
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川瀬 さゆり 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | シャルトル大聖堂 / 鉄骨 / 19世紀 / 小屋組 / 木造 / サン=ドニ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は19世紀前半の作例調査をさらに拡大し同時期の鉄骨小屋組実践についてより詳しく検討すると共に、19世紀中葉のサン=ドニ旧修道院・サント=クロチルド教会の鉄骨小屋組の歴史的展開までを跡付けることを目標とした。 シャルトルの小屋組に先行し重要と思われるフランス国内の先例について遺構と文献を調査し、各小屋組の材料・形態・構造等を検証すると同時にこれらの先例がシャルトルとどのような歴史的影響関係にあるのか検討した(証券取引所、フランス下院、会計検査院古文書館、ヴェルサイユ宮殿ほか)。その結果1820年代から1830年代までのフランスにおける鉄骨架構技術の実態とその漸次的変化を実証的に捉えることができた。また1830年代までの鉄骨架構技術がシャルトルの小屋組のどの部分で引き継がれているかという点も新たに明らかとなった。さらに各小屋組の展開を跡付けた結果、17世紀後半から19世紀前半にかけてフランスの建築家たちが石材を最高位に位置づける従来の伝統的建築観を徐々に見直し、それまで石であることが当然だった部分を鉄に置き換えていったという建築観の重要な変化を改めて発見することができた。この成果は日本で論文化し2017年4月現在査読が終了した。 サン=ドニ旧修道院とパリのサント=クロチルド教会の小屋組についても遺構・文献調査を実現した。その結果、これらの教会小屋組の材料と工法に関する新規情報ならびに同時期に属するこれらの鉄骨トラスが共通して十字型の筋交いを採用していたという重要な事実を知ることができた。この結果は前年度から継続しているシャルトル大聖堂の焼失した木造小屋組の構造の詳細およびシャルトルからサント=クロチルドまでの鉄骨小屋組の史的展開ならびに19世紀中葉の建築家たちの中世建築観の問題に決定的に関わるため重要である。この成果については3月末にフランスの論文誌への掲載が決まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画の要であったサン=ドニ旧修道院とパリのサント=クロチルド教会の小屋組の遺構・文献調査を予定通り実現し、サント=クロチルドまでの歴史的展開を跡付けることに成功した。近年のテロの影響によりセキュリティ上の問題で計画していた調査が実現できるかどうか懸念していたが無事に遂行できた。本年度の研究により19世紀前半から中葉までの重要な作例データを一定数以上確保することができた。その結果、本研究が最終目標としている鉄骨小屋組の歴史的系譜の前半部を明らかにすることができ、論文化を進めることができた。以上から本研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は前世代の鉄骨小屋組実践がヴィオレ=ル=デュクの鉄骨実践と理論にどのように影響したのか、著作と遺構の分析を通じて彼の修復と新設計における金属使用の理論形成過程までを明らかにすることを目標としている。ならびに古建築修復における新材料の導入について世紀を通じて考え方がどのように変容したのかという問題についても事例に基づき検討を行い、19世紀フランスの文化遺産保存思想について総合的に考察することを目指す。 上記目標のため平成29年度は①19世紀後半に行われた中世建築修復における鉄使用実態②ヴィオレ=ル=デュクの鉄使用実態について、各遺構と同時代文献を調査し明らかにする。ヴィオレ=ル=デュクと同時代~19世紀後半に中世建築修復を担った建築家たちによる鉄骨小屋組の試みまたは木造小屋組における鉄使用実態を明らかにするため、フランス国内のゴシック大聖堂を中心に十数件の中世建築について現地遺構調査ならびに国立古文書館・県立古文書館等での史料調査を行う。またヴィオレ=ル=デュクの実践と理論を検討するため、ピエールフォン城の遺構・文献調査を実現する。 ここまでの研究進捗を経て同時代作例の実態をさらに充実させ実証研究を積み上げることが本研究の発展のために不可欠と判断し、最終年度も調査の規模を縮小せず可能な限り現地で遺構と時代史料をあたることに方針を一部修正した。昨年同様日照時間の長い夏期中に遺構調査を実現し、それ以外の時期は文献調査を進める。フランスの行政上の問題により万が一遺構調査の許可がスムーズに下りないなどの問題が発生した場合は、文献調査や類例との比較からデータを補完するなどして柔軟に対応する。またこのような問題に備えて現地での調査期間を長目に確保する。
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Research Products
(3 results)