2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J06631
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
加藤 善隆 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ナトリウム / プロトン / タンパク質 / 光化学 / イオン選択性 / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では2013年に初めて報告された光駆動ナトリウムポンプKR2を対象にし、ナトリウムイオンの一方向輸送機構を原子のレベルで明らかにすることを目標としている。また、輸送機構の知見をもとに分子構造を改変することで、イオン選択性を変化させた改変型ポンプの設計にも取り組む。平成27年度は「輸送機構の解明」と「改変型ポンプの設計」の両方で成果を出し、共著論文を含めて計3報の論文を発表した(Nature 1報、J. Phys. Chem. Lett. 2報)。以下に成果の概要を説明する。 KR2はイオン輸送経路の途中に色素レチナールをシッフ塩基結合している。このシッフ塩基が正電荷を帯びやすいため、同じく正電荷をもつナトリウムイオンがどのように静電反発を回避しているかが大きな謎であった。我々は、東大・濡木研究室グループとの共同研究によりKR2のX線結晶構造を明らかにし、変異体の機能解析、分光解析を行なった。その結果、シッフ塩基近傍に位置するAsp116がプロトンを受け取り、向きを変えることがナトリウムイオン輸送を可能にしていること示した。さらに、結晶構造からイオン取込み口に狭い部分があるのを見つけ、その部分のアミノ酸変異を行なうことで、自然界には存在しないカリウムイオンを輸送する光駆動ポンプの創成に成功した。また、その後の研究でイオン取込み口にさらにアミノ酸変異を導入することで、セシウムイオンを輸送する光駆動ポンプの創成にも成功した。これらの改変型ポンプは光遺伝学や金属イオン回収への応用が期待される。 KR2はナトリウム非存在下でプロトンをポンプする。我々はこのプロトン輸送に着目して研究を行ない、プロトンとナトリウムイオンの取込みが競合的に起こる新たな反応モデルを提示した。また、反応速度論に基づいた解析によって、プロトン‐ナトリウムイオンの選択性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は輸送機構の解明を中心に研究を進める計画であった。実際に、イオン取込み機構についてはプロトンとナトリウムイオンの取込みが競合的に起こる新たなモデルを示した。また、反応速度論に基づいた解析によって、KR2はナトリウムイオンよりもプロトンを1,000倍以上も取り込みやすいことを示した。一見すると不思議な結果に見えるが、生理条件ではナトリウムイオン濃度がプロトン濃度よりも約5,000万倍も高いため、KR2はナトリウムイオンを優先的に取込むことになる。先行研究においても、ナトリウムイオン濃度がプロトン濃度よりも圧倒的に高い条件で測定を行なっていたため、気にすることのなかった事実であるが、ナトリウムイオン非存在下で起こるプロトンポンプの機構解明や、より大きなカチオンを効率よく輸送するためのタンパク質デザインに繋がる非常に重要な知見である。 計画以上に進展していると判断した理由は、イオン選択性を制御した変異体の創成に成功しているためである。申請時に既に発表予定であった結晶構造が研究を進める上で有利にはたらくことは想定していた。一方で、得られた結晶構造は光反応前の構造であるため、光反応によってもたらされる“機能”の改良に対してどれ程の力を発揮するかは未知数であった。結晶構造で見られたイオン取込み口に着目して、集中的に変異導入したことで、セシウムイオンを輸送する光駆動ポンプの創成にまで発展した。イオン選択性の制御したタンパク質のデザインに近づいており、計画以上の進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結晶構造および光反応ダイナミクスの研究により、イオン取込み機構に関しては理解が進みつつある。一方で、イオン放出機構に関しては情報が少ないのが現状である。現在、細胞外側に近いアミノ酸の変異体に対する過渡吸収測定を行ないナトリウムイオンの放出機構を調べている、決定的なデータが得られていない。引き続き、野生型と変異体における光反応ダイナミクスや構造変化を調べる予定である。また、光駆動プロトンポンプでは、40年以上にも及ぶ先行研究の蓄積があり、放出機構の研究例も多くある。KR2はナトリウムイオン非存在下でプロトンポンプとしてはたらくことから、その際のプロトン放出機構を明らかにすることで、ナトリウムイオン放出機構に関する手掛かりを探す戦略も予定している。 改変タンパク質の創成は、野生型KR2のイオン輸送機構に対しても新たな知見を与える可能性がある。そのため、機構解明の研究と並行して進めていく。具体的な目標の一つはセシウムイオンの選択性向上である。昨年度にセシウムイオンを輸送する光駆動ポンプの創成に成功しているが、セシウムイオンの輸送能はナトリウムイオンの輸送能の一割程度である。これまでは、イオン取込み口に集中して変異体を作成していたが、今後はシッフ塩基周辺にも変異を導入していく。これまでの研究で、タンパク質内部に取り込まれたカチオンは過渡的にシッフ塩基周辺に結合することが示唆されていることから、シッフ塩基周辺のアミノ酸変異でもイオン選択性が変化することが推測される。また、昨年度の研究によって、KR2はナトリウムイオンよりもプロトンの選択性が高いことが明らかになっている。プロトンとの競合にも着目し、シッフ塩基のpKaを変化させるような変異も導入する。
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Research Products
(11 results)