2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J06685
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
伊藤 友計 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 西洋音楽 / 音楽理論 / 和声 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究員は西洋音楽の根幹的構造ともいうことのできる和声・調性という存在に興味を抱き、この理論的研究を自らの主目的としてきた。この目的のために当面の目的を18世紀フランスで活躍した音楽家J.-Ph.ラモーの音楽理論の研究に充てることとした。したがって当研究員は大学時代から一貫してラモーの音楽理論書の原文の精読に勤めてきた。その成果は卒業論文、修士論文にまとめられ、現在その延長線上で博士論文を作成中である。 博士課程では研究の主対象をラモーの音楽理論書第三作目である『和声の生成』(1737年)とした。この著作は当時のパリ王立アカデミーに提出され受理されただけではなく、後の和声の伝播・発展の礎となったテクストであることが研究対象とした理由である。と同時に当研究員はラモーの主著である『和声論』(1722年)とこの『和声の生成』の本邦初となる翻訳を作成し、これらは平成28年度に東京藝術大学大学に提出予定である博士論文の添付される計画である。 こうしたラモーの原著の研究と同時に当研究員はラモー理論のその後の伝播・受容をもフォローしてきた。ラモーの諸テクストで記述された和声の規則は、様々な問題をはらみながらも、ヨーロッパ諸国へと波及し決定的な影響を与え、その影響は今日のわれわれの音楽体験をも規定しているほどである。そのためフランスにおける状況に加え、イギリス、ドイツ、イタリア、ロシア等においてラモー理論に対するどのような反応があったのかを追跡調査することは、われわれの音楽体験の解明にも連なる重要な研究である。この点当研究員は海外における調査研究に乗り出し、必要な資料に実際に接することができ、これらの成果も博士論文等に反映される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当研究員はラモーの音楽理論研究を推進する中で、ラモー以後にラモー理論がどのように伝播したのかの追跡調査も始めることとした。それは当研究員にとって18世紀当時の和声の営みと、現代のわれわれの和声理解の異同を確認するうえで重要な作業であることが明確になってきたからである。そうした中、フランス国内はもとより、イギリス、ドイツ、イタリア、スイス等の諸地域でいかなる反応がラモー理論に示されたかをフォローすることとなったが、現在ではインターネット環境はこうした学術調査も大幅に進展させていることが判明した。18世紀当時の多くの原テクストがWeb上で公開されており、多くの情報をPC上で得られるようになったからである。しかし、研究員にとって必要とするすべての著作や情報にWeb上で接することができたわけではないのも事実である。そのため平成27年度は科研費を用いて、特にフランス、イギリスで調査研究を行い、フランスでは科学アカデミー内のBibliotéque de L'Instituteにおいてラモーあるいは彼の弟子が残したとされる手稿の現物を精査し、イギリスのBritish Libraryではラモー理論の18世紀末の英訳本を確認することができた。さらに予想を超えて収穫だったのがロシアにおける状況である。欧米諸国と比べて、ロシアの学術機関関係のインターネット公開の進捗状況は芳しくなく、18世紀以降においてラモー理論がどのようにロシアにおいて摂取されたのかは研究開始当初ほとんど不明であった。この点研究員はサンクト・ペテルブルグ音楽院においては短期留学の形でI.ローザノフ教授(古楽鍵盤楽器)に、モスクワ音楽院においては個人的にG.ルィジョフ教授(同音楽院歴史理論学部主任)に師事することができた。この研究の方向性は今後も継続される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在当研究者は所属する東京藝術大学大学院にて博士論文を作成中である。この考察の主要な対象はラモーの音楽理論書第三作目『和声の生成』(1737)である。このテクストはラモー理論の総体的なサマリーとしても読めるもので、したがって当博士論文においてもラモー理論の広範かつ詳細な理解を目指すことを目標としている。具体的には、この書物の歴史的背景、個々の音楽理論上の諸問題の精査、そして18世紀フランス啓蒙主義思想の中でラモー理論を捉える試みが想定されている。またラモー理論は今まで、特に日本では、事典的な記述や研究論文によって間接的に受容されてきた経緯があり、必ずしもラモーのテクストの意味するところが伝わっていない現状があるので、ラモーの主著『和声論』(1722年)と『和声の生成』の本邦初の翻訳を用意し、これは当博士論文の添付資料として共に提出される予定である。 また平成27年度より始めた海外現地調査も継続する予定である。当研究員はラモー理論のその後の伝播の状況のフォローを始めたが、British Libraryとメール等で折衝中に明らかになったのは、18世紀当時のラモーの理論書の英訳の一つがもはや英国にはなく、北米(ニューヨークとシカゴ)にその存在が確認された、ということであった。したがってこの今一つの英訳本については平成28年度中にその実物の内容を確認し、研究成果につなげたいと考えている。また同じく平成27年度中に知己を得たロシアの音楽院の教授たちとは、幸い現在でもネットを通じて交流を続けることができており、意見交換に励んでいる。ロシアにおける過去・現在の音楽学の実情というのは日本ではほとんど知られていない。先方では当研究員の再度の当地での留学・現地調査に協力の旨を示しておられるので、この方面でも研究を継続する意向である。
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