2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J07063
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
調 勇二 一橋大学, 大学院商学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | のれん / 期待リターン / 経営者予想 / 業績予想 / 予想誤差 / 株価反応 / 自己株式の取得 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は買入暖簾が有する経済的機能に関して実証的に検証することにある。第2年度である平成28年度は、主に買入暖簾と株式の期待リターンに関する実証分析と、前年度の研究において分析を行う必要性が顕在化した、日本企業の情報開示の重要な一端をなす、経営者による業績予想開示に注目した分析を行った。 買入暖簾と株式の期待リターンに関する分析では、買入暖簾が貸借対照表に計上される他の資産に比して経営者と投資家間の情報の非対称性が大きいことに注目して、買入暖簾計上額と期待リターンの関係を検証している。日本企業のアーカイバル・データを用いた分析の結果、暖簾計上額が大きいほど期待リターンが高い傾向が観察された。 経営者による業績予想開示(以下、経営者予想)に関する第1の分析として、本年度は経営者予想誤差のボラティリティと経営者予想利益に対する株価反応との関係を分析した。分析の結果、予想誤差のボラティリティが小さい企業ほど株価反応が大きいこと、予想誤差のボラティリティが増加した企業ほど株価反応が小さいこと、および予想誤差のボラティリティの変化と株価反応の関係は、事前の予想誤差のボラティリティの大小にかかわらず観察されること、が明らかになった。 経営者予想に関する第2の分析として、経営者予想に対する株価反応と自己株式の取得に関する分析を行っている。本研究では、経営者予想の開示が実質的に義務化されている日本の制度的特徴に注目し、日本企業のデータを用いて、経営者予想に対する株価反応と自己株式の取得の関係を分析している。現在までの分析からは、企業は経営者予想とりわけバッド・ニュース予想に対する株価反応が強い場合に、自己株式の取得を行う傾向にあることが観察されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、平成27年度の研究成果を踏まえ、主に買入暖簾に関する分析と、経営者予想に関する分析を行ってきた。そのうち、前者については、日本企業のアーカイバル・データを用いた分析の結果、(1)成長機会が豊富な企業に計上されている買入暖簾ほど価値関連的であること、換言すれば株式市場からより高い評価を得ていること、(2)暖簾計上額が大きいほど期待リターンが高いことが明らかにされている。研究成果の公開状況としては、(1)に関する研究は英文の査読付きジャーナルに2016年に掲載されており、(2)に関する研究は2017年4月に公刊された書籍において、その研究成果を公開している。 後者については、経営者予想の開示が実質的に義務化されてきたために、各企業の複数期間にわたる予想情報の入手が容易であるという日本の制度的特徴に注目し、経営者予想の情報有用性に予想誤差のボラティリティ(volatility)が及ぼす影響を、経営者予想公表時の株価反応に注目して検証している。分析の結果、予想誤差のボラティリティが小さい企業ほど株価反応が大きいこと、予想誤差のボラティリティが増加した企業ほど株価反応が小さいこと、および予想誤差のボラティリティの変化と株価反応の関係は、事前の予想誤差のボラティリティの大小にかかわらず観察されることを明らかにしている。当該研究については、査読付き学術誌へ投稿し、レフェリーによる査読プロセスを経た後、掲載が許可されている(2017年11月掲載予定)。 平成28年度中、これらの研究成果を国内および国外で学会において報告したことにくわえて(国内外各1回、計2回)、国内外併せて2度の学会に参加し、国内外問わず多数の研究者との意見交換を通じて積極的な研究活動を展開していた。以上を総合的に評価し、本研究課題の進捗状況は概ね順調に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成29年度における研究の推進方策の柱は以下の2点である。 第一に、研究成果の外部への公表である。平成28年度は主としてアーカイバル・データを用いた実証分析および他の研究者との意見交換を通じた研究内容の改善を基に、研究成果の公開を行ってきた。平成29年度においては、引き続きこれらの研究から得られた成果を、主として学術誌への投稿あるいは書籍への収録により外部へ公開することで、研究成果の社会への還元を図る。 第二に、得られた研究成果を踏まえた研究の展開である。平成28年度の研究からは、経営者による業績予想が他の企業行動と相互に関連していることが示唆されている。それゆえ、平成29年度は、日本企業による情報開示の重要な一端をなす経営者予想に関して、とりわけ他の企業行動と関連性に着目した研究を行う。現在進展中の研究の一例としては、経営者予想に対する株価反応と自己株式の取得に関する分析がある。本研究では、経営者予想の開示が実質的に義務化されている日本の制度的特徴に注目し、日本企業のデータを用いて、経営者予想に対する株価反応と、自己株式の取得の関係を分析している。現在までの分析からは、企業は経営者予想とりわけバッド・ニュース予想に対する株価反応が強い場合に、自己株式の取得を行う傾向にあることが観察されている。この分析結果からは、自己株式の取得がバッド・ニュース予想に対する過大反応をきっかけとして実施されていることが示唆されており、自己株式の取得が過小評価のシグナルとして機能するというシグナリング仮説と整合的な結果だと考えられる。
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Research Products
(6 results)