2015 Fiscal Year Annual Research Report
スキャンロンの契約主義による道徳的不一致現象の解明―理由に基づく倫理学の視角から
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15J07262
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
押谷 健 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 契約主義 / スキャンロン / 価値多元主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、T.M.スキャンロンが『我々が負いあうもの』において提唱した契約主義的道徳理論の説得力を、その(1)理由・価値についての説明、(2)道徳的推論の説明、及び(3)道徳的動機付けの説明、という三つの観点から包括的に検討するものである。
当該年度は主に2)に該当する、契約主義による道徳的推論の説明を検討した。具体的には、契約主義が前提とする価値(ないし善)の構想とはどのようなものかを明らかにしたうえで、「正しさ」の観念と「価値(ないし善さ)」の観念が、契約主義的な道徳理論の過程においてどのように関連付けられているのかを考察し、「正しさ」についての契約主義的推論への批判の妥当性を検証した。本研究の当該部分については、次年度中に海外ジャーナルに投稿する予定である。
当該年度では以上の研究に加えて、冒頭で述べた(1)契約主義が前提とする理由・価値の理論、及び(3)契約主義の動機付けの説明についても、関連する文献の収集・読解及び分析を進めた。(1)については、本年度は主にスキャンロン自身が提示する価値論に近い価値論を展開している理論家(E.アンダーソン等)のテキストの読解と分析を行った。また、(3)との関連でとりわけ重要な文献として、S.ダーオルのThe Second-Person Standpointの読解を行った。ダーオルは、スキャンロンの契約主義と概ね親和的な道徳理論を提示しつつも、スキャンロンの契約主義では、なぜ「正しさ」に関する理由がその他の諸理由に優先するのかを説明することができないとする批判を提出している。こうしたダーオルの立場を詳細に確認することにより、今後における研究の見通しを得ることできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究では、契約主義における道徳的推論の説明の考察を中心に研究を行った。また、その他の課題に関しても、関連文献の収集及び検討を進めるとともに、研究の今後の方向性に関する考察を深めることができた。ただし、今後の課題として以下の二点が挙げられる。第一に、当該年度は契約主義倫理学と比較的親和性の高い理論家を中心に検討を進めてきたため、次年度以降は契約主義に批判的な帰結主義陣営の理論家に対するより詳細な検討が求められる。第二に、当該年度は主に関連文献のサーベイ及び論文草稿の執筆に当てられた。そのため、次年度はあらたに得られた研究成果の公表と並行して、当該年度の成果も順次アウトプットしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は主に契約主義における道徳的推論の説明に焦点を当て、一定程度の成果を得ることができた。そのため次年度は、契約主義における道徳的動機付けの説明を検討する予定である。具体的には、契約主義的道徳理論が人々に要求する「各人に対する不偏的な配慮」は、人々が実際に抱く多様な諸価値や諸理念と両立不可能な仕方で対立するのではないかとする批判への応答を試みる。
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