2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J07404
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 創祐 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 情報熱力学 / 非平衡熱力学 / オンサーガー相反関係 / 情報流 / グラフ理論 / 非平衡統計力学 / 生物物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度はこれまでにやってきた複数の研究をまとめながら、さらに研究課題を完成させるために複数の新しい研究を試行錯誤しながら行った。以下の研究が今年度に行った主な研究である。 《『情報理論による熱力学の拡張と、生物現象への応用』について》 熱力学第二法則の情報理論への拡張である一般化第二法則を用いることで, 生体の情報通信システムである「大腸菌の走化性」を解析した. その結果として『大腸菌の細胞内を流れる情報量が、外界からのノイズに対して走化性がどのくらい安定(ロバストネス)であるかを決める』という熱力学的な関係があることを明らかにした。 この結果はNature Communication 誌にて出版された。 《『情報の流れを含んだオンサーガー相反関係』について》 情報の流れを統計力学に拡張する第一歩として、情報の流れが存在するときに既存の非平衡統計力学の法則が成り立つかどうかを調べた。その結果、既存の非平衡統計力学の法則であるオンサーガー相反関係が、熱力学量と情報の間にも成り立つことを極めて一般的に示すことに成功した。この結果は近日投稿予定である。 《『確率的な熱力学を基礎とした非平衡相転移理論』について》 非平衡相転移理論を、情報を含んだ形に拡張するための前段階として、情報理論と熱力学の融合である確率的な熱力学を基礎とした非平衡相転移理論の構築に着手した。相転移理論で重要な役割を果たす自由エネルギーを、グラフ理論によって熱力学的に記述する方法を構築し、明示的に非平衡相転移現象における様々な熱力学的な効果の寄与を記述する手法を編み出した。この結果を用いて、ASEP やGlauber dynamics などの具体的な(非)平衡相転移模型を扱うことを次のステップとしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『情報理論を用いて非平衡熱・統計力学を拡張していく』という計画のなかで、非平衡統計力学の金字塔であるオンサーガー相反定理を「情報の流れ」まで拡張ができたという今年度の成果は、計画を進行させる上で非常に重要な指針となりうるからである。 特に確率模型であるMarkov jump 過程に対し、グラフ理論的な確率的な熱力学形式であるSchnakenbergネットワーク理論を用いることで、極めて簡潔な証明を得ることに成功したのが本成果の重要な点であり、本研究課題の目標である『情報理論を用いた非平衡相転移理論の拡張』に素直に応用できる可能性を秘めている。 特に、同様の手法を用いて相転移理論で重要な役割を果たす自由エネルギーを、グラフ理論によって熱力学的に記述する方法を構築できたのも大きい。同様の手法を出発点にすることで、将来的に現在構築中の『確率的な熱力学を基礎とした非平衡相転移理論』のなかに「情報の流れ」が含まれる形で拡張が可能なのではないかと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は『情報の流れを含んだオンサーガー相反関係』の研究で得られた、新たに判明した事実を基礎にして、『情報の流れによる非平衡熱・統計力学』のさらなる構築に力をいれていく。特に情報と熱力学における新しい知見を用いて、新しい「情報の流れ」の尺度を導入したり、もしくはグラフ理論の手法を駆使することで、現行の『非平衡熱・統計力学』の様々な理論を「情報の流れ」を用いて拡張していく。 特に非平衡相転移の理論を情報に拡張するために、まずは『確率的な熱力学を基礎とした非平衡相転移理論』を完成させることを一つの目標にしたい。
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Remarks |
Nature communicationに出版した論文"Maxwell's demon in biochemical signal transduction with feedback loop" に関する報道および解説記事.
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