2016 Fiscal Year Annual Research Report
『子どもの美術』とデューイ美的経験論の架橋:Lifeのための哲学と教育の融合研究
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15J07445
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西郷 南海子 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 生き方としての民主主義 / 美的経験と成長 / 子どもと大人の相互作用 / 美術教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、デューイの美的経験論を、子どもと大人の相互作用の問題ととらえて考察してきた。そのテーマを図工教科書『子どもの美術』というフィールドにおいて検証・発展させることが博士課程の課題である。平成28年度は、デューイの教育論を方法論のみならず、生き方を問う哲学として、現代社会で具体的に応答させていくことに取り組んだ(京都大学アカデミックデイ、「生きることがアートであるということ」、ポスター、平成28年9月18日、京都大学〔京都府京都市〕)。 『子どもの美術』は、冒頭に掲げられた「どんなひとになるのがたいせつか」という言葉が象徴しているように、子どもと大人が出会いを通じて、自己を問い直していくことを目的とした。それは、作品を生み出すことを通じて「子どもと教師が美しい生き方をともに探究する」という実践であった。申請者は、この『子どもの美術』が示唆する哲学のあり方を、現代社会に応答するかたちで明らかにするために、同書を採択し教育実践に用いた元教員たちへのインタビュー調査を行った(平成28年9月23~25日東京都小笠原村父島、11月14~15日沖縄県石垣島)。そしてこれらの調査結果をふまえ、学会発表を行った(教育史フォーラム、「現代美術社・太田弘の思想と実践―美術を学ぶのは何のためか」、口頭、平成28年3月8日、谷岡学園〔大阪府大阪市〕)。 また平成28年12月には、米国フィラデルフィアのバーンズ財団を訪問し、デューイの美的経験論に大きな影響を与えたバーンズの美術論について調査を行った。バーンズ財団が今日も活発に美術教育運動を展開していることからも、デューイとバーンズの協働の意義を再考することができた。これらをふまえ、デューイ美的経験論を掘り下げた論文「デューイ美的経験論における衝動性と知性の位置づけについて」を日本デューイ学会に投稿することができた(受理、改稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デューイの美的経験論を実際の子どもと大人の関係において「生きた哲学」として明らかにすることが本研究の目的である。平成28年度は、『子どもの美術』(昭和55年度)を採択し教育実践に用いた元教員たちへの聞き取り調査を行うことに成功し、元教員たちがどのような教育理念をもって教育現場に臨んでいたかを把握することができた。東京都小笠原村は、昭和43年にアメリカから返還されて以後、僻地教育に熱意をもった教員たちが赴任し、少人数かつ民主的な学校運営が行われていた。こうした教育実践が継続する中で『子どもの美術』は採択され、結果的にはそれが昭和55年度では、全国公立小学校で唯一の『子どもの美術』採択地区となった。 民主的な教育理念をもつ教員がいたとしても、それを生かすことのできる環境が必要であり、小笠原地区はその双方の条件が実現した場だったと考えられる。ここで示唆される教育と民主主義という問題、すなわち民主的なコミュニティの教育的機能とは、デューイが生涯を通じて論じたテーマである。このことを現代社会に通じる形で説得的に展開していくために必要となるのは、デューイが提唱した教育哲学と実際の教育実践を重ね合わせて論じるための「手法」の獲得である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の「現在までの進捗状況」で述べたように申請者は、哲学書読解を主とする教育哲学研究と、史料や聞き取り調査を主とする教育史研究の架橋を試みている。その「手法」に苦心しているのが現在の状況である。教育哲学研究を「読解」の中で完結させるのではなく、また教育史研究を個別具体的な一回限りの出来事として完結させるのではなく、両分野を重ね合わせた形で今日の教育に生きるものとして明らかにすることを模索したい。 平成29年度は、平成27年度28年度に得た調査結果を、項目ごとに投稿論文にまとめていく。『子どもの美術』を支える思想については、美術教育史の観点から論文を執筆し、日本美術教育学会へ投稿する予定である。またその教科書の採択を可能にした小笠原地区の民主的な学校運営については、日本教育学会へ投稿する予定である。これらの研究成果を総合して博士論文を執筆する。
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Research Products
(3 results)