2016 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリア外膜トランスロケーターによるタンパク質輸送の構造・機能研究
Project/Area Number |
15J07687
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
荒磯 裕平 京都産業大学, 総合生命科学部, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | ミトコンドリア / トランスロケータ複合体 / クライオ電子顕微鏡単粒子解析 / 構造生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
サイトゾルで合成されたミトコンドリアタンパク質の膜透過、膜組込みの分子機構を解明するため、ミトコンドリア外膜トランスロケータTOM複合体の立体構造解析を試みた。TOM複合体の構成サブユニットTom22のC末端にヒスチジンタグを導入した酵母細胞から単離したミトコンドリアを界面活性剤ジギトニンで可溶化し、Hisタグアフィニティ精製とゲル濾過精製によって、分子量約450kDaのTOM複合体を精製し、クライオ電子顕微鏡単粒子解析による立体構造解析を行った。ネガティブ染色による予備観察においては、3つのチャネルを有する均一な三量体構造が観察されたが、クライオ観察においては均一な粒子が観察されず、試料の凝集や解離が考えられた。そこで、界面活性剤ジギトニンを両親媒性ポリマーであるAmphipolに置き換えることでデータの改善を試みた。ジギトニン存在下で精製したTOM複合体にAmphipolを添加し、界面活性剤を含まないバッファーによるゲル濾過クロマトグラフィーによって緩やかにジギトニンを除去したところ、同様に分子量450kDa相当の位置にTOM複合体が溶出され、三量体構造を保持していることが示唆された。ネガティブ染色やクライオ観察による予備スクリーニングにおいてTOM複合体と考えられる比較的均一な粒子が観察されたため、高分解能での構造決定を目的として電子直接検出カメラFalcon IIを備えたクライオ電子顕微鏡TitanKRIOS(阪大蛋白研共同利用研究)を用いて自動撮影によるデータコレクションを行った。得られたデータセットにはTOM複合体と考えられる粒子が観察されたが、変性を受けた不均一な粒子が多数存在し、バックノイズも高いことからparticle pickingが非常に難しく2Dクラスアベレージを計算することができなかった。構造解析のためには試料調製や測定条件の再検討が必要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TOM複合体は7つのサブユニットで構成され、サブユニットが頻繁に出入りする動的な複合体である。そのため、大腸菌を用いた発現・精製は非常に困難である。発現系に酵母を用いた場合でも、ミトコンドリア外膜タンパク質の過剰発現は細胞毒性を示し、過剰発現させることができない。したがって、本研究ではTOM22遺伝子にヒスチジンタグを導入し、endogenousな発現レベルのTom22サブユニットをアフィニティ精製することで、インタクトなTOM複合体の調製に成功している。得られた精製TOM複合体はゲル濾過クロマトグラフィーにおいて単分散性を示すうえに、少なくとも5つのサブユニットを含む均一な試料で、この点において構造解析に適している。しかし、細胞あたりのTOM複合体の発現量は著しく低く、分画したミトコンドリアから可溶化・精製する必要があるため、高収量のTOM複合体を調製することが非常に難しい。さらに、一度に100gを超える大スケールの酵母細胞を破砕することは技術的な困難が伴い、高効率での細胞破砕は実現していない。高度に最適化した現在のプロトコルにおいても酵母培養液12Lあたりから精製できるTOM複合体は0.1mg程度であり、現状の収量ではX線結晶構造解析での構造決定は困難である。クライオ電子顕微鏡単粒子解析においては、TOM複合体三量体構造がクライオ観察条件下において解離・凝集してしまうために構造解析を進めることができていない。これはTOM複合体が不安定な膜タンパク質複合体であることに起因する。グリッドの種類や凍結条件、TOM複合体の調製方法等を検討することで徐々にデータを改善することができているが、現状のサンプル収量では迅速に効率良く条件検討を進めることが困難であるため、データ測定の最適化には多くの時間を要する。
|
Strategy for Future Research Activity |
生化学的な解析により、酵母から精製したTOM複合体は低収量であるが、単分散性の高い均一な試料であることが示唆された。今後はクライオ電子顕微鏡単粒子解析での構造決定に集中して本研究を推進する。しかし、現状ではクライオ電子顕微鏡観察において2Dクラスアベレージ計算が可能な均一な粒子を観察することができていない。したがって、TOM複合体の構造決定のためには、クライオ観察のグリッド中でも高次構造を保つことのできる安定性の高いTOM複合体を調製し、さらにグリッド凍結条件の精密化とデータ測定のバックノイズを抑える工夫を進めることが必要である。これらの条件検討を効率良く進めるには高収量での試料調製が必須であり、酵母の破砕方法やミトコンドリア分画法のさらなる最適化や新規手法開発を進めていく。 界面活性剤ジギトニンから両親媒性ポリマーAmphipolへの置換については、量比やインキュベート時間、界面活性剤の除去方法等、最適化の余地が残っており、これらを精密化していくことで、クライオ観察における粒子の均一性を改善する。また、近年の膜タンパク質のクライオ電子顕微鏡単粒子解析で成功例が増えているナノディスク法を適用し、TOM複合体の脂質二重膜への再構成を試みる。ナノディスクの足場タンパク質の長さや構成リン脂質組成の最適化を行うことで、高次構造を維持した均一な試料調製を試みる。これらの手法が確立すれば、界面活性剤に由来するバックノイズを抑えることが可能になり、コントラストの高い良質な電顕データセットを得られる。 試料凍結については、様々な材質・holeサイズのグリッドを試し、さらにはカーボン膜を張ったグリッドでの観察も試みた。今後はこれらのグリッドを用いた凍結条件の精密化に加えてgraphene oxide膜を張ったグリッドを適用することで、TOM複合体の解離を防ぎ、均一なグリッドの作成を試みる。
|
Research Products
(1 results)