2015 Fiscal Year Annual Research Report
ソース・シンク間の転流動態に関与する物質輸送系の局所環境管理による最適化
Project/Area Number |
15J07916
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
三好 悠太 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 転流 / 施設園芸 / 光合成 / 環境調節 / イチゴ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではまず、複雑な転流プロセスのうちソースから師管への光合成産物の輸送(ローディング)に着目し、栽培現場での変動が激しくかつローディングに大きく作用する光環境のローディングへの影響を評価した。材料植物としてイチゴ一季成り性品種‘章姫’をポット栽培し、処理区として遮光区(寒冷紗による90%遮光)、補光区(高輝度白色LEDを6時から18時まで12時間補光)、対照区(自然光)の3処理区を設けた。ソース葉として展開第3葉を定期的にサンプリングし、サンプル抽出液をHPLCで定量分析することにより葉内糖濃度を測定し、葉内糖濃度の時間変化を調べることで各処理区の光環境が葉内糖濃度およびローディングに与える影響を検討した。図1に各処理区の日積算PPFDおよび葉内におけるスクロース合成速度の12時間毎の変化を示す。スクロース合成速度において、正の値は葉内へのスクロース蓄積を示し、負の値は葉内からのスクロースローディングを示す。処理区毎にソース葉における光強度が強くなるにつれてスクロースの合成速度が増加し、師管へのローディング速度も増加した。 また時々刻々と変動する転流動態の時空間変動を、RIイメージング技術を援用し連続的・2次元的に評価した。材料植物としてイチゴ一季成り性品種‘あまおう’を、グロウスキャビネット内(温度;20℃、湿度;70%、PPFD;400 μmol m-2 s-1)で12時間日長にて4日間ポット栽培したのち、放射性同位体11Cを含む二酸化炭素をソース葉にフィードしてガンマ線検出器で11Cの動態を解析した。当該年度ではRIイメージング技術の基礎的実験を行い、本技術をイチゴに援用可能であることを確認した。次年度での実験において、様々な環境下における転流動態の時空間変動の解析を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
九州沖縄農業研究センター久留米拠点イチゴ植物工場やイチゴ生産農家に頻繁に赴き、厳しい環境下での長期間泊まり込みによる共同観測実験等によって、ソース・シンク間物質輸送(転流)の環境応答に関する生産現場の貴重なデータを取得している。また、量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所と共同研究を行い、RIイメージング等の先進的技術を援用して、転流動態の時空間変動の解析に取り組んでいる。さらに、転流動態に基づいた省エネルギーでの栽培環境管理技術の確立を目的として、九州大学貝塚圃場内のビニルハウスに地温不易層との熱交換を活用した局所温度管理システムを構築し、システムによる省エネルギー環境管理効果の評価にも取り組んでいる。 研究成果:観測実験等で得られた膨大なデータを迅速に取りまとめ、当該年度において論文1報、学会発表4件を確実に実現している。国際学会へも積極的に参加し英語でのコミュニケーションに意欲的に取り組んでいる。機会あるごとに成果を積極的に発表し、誠実なプレゼンテーションが高く評価されている。
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Strategy for Future Research Activity |
植物-環境系物質輸送プロセスにおいて、光合成産物の転流、根の養水分吸収及び植物体内の水分動態は、作物の成長や収穫対象器官への物質集積を支配する重要なプロセスであり、水分動態を媒介として互いに密接に連関している。栽培環境の最適化のためには、これらの連関する物質輸送プロセスの動態の時空間変動の評価とそれに基づいた合理的な環境調節が望まれる。しかしながら、これらの時空間変動の評価は容易ではなく、連関するプロセスの環境応答について総合的に評価した例はない。そこで申請者らは、植物個体内における物質(糖、イオン、水)の動態の時空間変動を連続的・2次元的に評価可能なRIイメージング技術を援用し、密接に連関する物質輸送プロセスの動的統合モデルの構築と同定を試みる。さらに、動的統合モデルを活用した、合理的な局所・適時環境調節の可能性を検討する。
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