2015 Fiscal Year Annual Research Report
時間分解光電子分光による高温超伝導体Bi2212の擬ギャップの解明
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15J08279
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡田 大 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 銅酸化物高温超伝導体 / 時間分解および角度分解光電子分光 / 高次高調波発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の成果として、異なる2種のポンプ光エネルギーで高次高調波を用いたポンプ・プローブ型の測定を行うことができるように測定系を立ち上げたことが挙げられる。 従来のレーザーベースの光電子分光測定系の光源には可視光もしくはその倍波が使われることが多い。一方、申請者らが構築した測定系で用いている光源は超短パルスと希ガスを用いた高次高調波であり、そのプローブ光源のエネルギー領域は真空紫外線から軟X線に渡る。このエネルギー帯域の光は空気中を通過せず、一方で高次高調波発生には希ガスを用いることから、試料-光源(高次高調波発生位置)間には大規模な差動排気システムを配置する必要があり、必要な波長だけ選択する分光システムを導入すると、光源から試料位置までの長い距離が必要になる。このように不可視でかつ長距離に渡る光路を真空チャンバー内で高調波発生源から試料上に焦点位置を到達させて、なおかつフェムト秒のオーダーで遅延時間(ポンプ光とプローブ光の光路長差)のゼロのタイミングを探索するという困難が常に付きまとう。日々修練を積むことで、標準試料としているグラファイト上でポンプとプローブの4次元的オーバーラップの探索を比較的スムーズに行えるようになった。ポンプ光として1.5eVとその倍波3eVの両方で測定できるよう光学回路を設計し、それぞれのポンプ光で時間及び角度分解光電子分光に成功した。グラファイトだけでなく、本研究目標である銅酸化物高温超伝導体Bi2212の時間分解および角度分解光電子分光を行い、ポンプされて非占有準位に叩き上げられた電子系の状態を観測することにも成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前項目で述べたように、希ガスによる超短パルスの高次高調波発生を用いた真空紫外から軟X線の領域の光源をプローブとしたフェムト秒時間分解-角度分解光電子分光装置を建設した。標準試料であるグラファイトだけでなく、本研究目標である銅酸化物高温超伝導体Bi2212においてもポンプ・プローブに成功した。さらに、申請者らの装置を用いて共同研究として並行して行っている鉄系超伝導体Ba122系における時間および角度分解光電子分光にも成功した。光学回路を試行錯誤して設計し、これまで光電子分光では到達できなかった50フェムト秒を切るような時間分解能を発揮することができている。この時間分解を持って、ポンプ入射直後の非占有準位側の状態数の立ち上がりが物質ごとに異なる可能性を指摘できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
銅酸化物高温超伝導体において、希ガスによる超短パルスの高次高調波を用いたフェムト秒時間分解-角度分解光電子分光に成功した。光源の繰り返し周波数が低いことから測定効率が悪く、1つの測定に数日を要するので、高繰り返しレーザーの導入が必要になる。一方で、高繰り返しレーザーでは1パルス当たりのパワー(フォトン数)が低下するので、高次高調波発生が難しくなる。測定効率の向上の為に、光源の繰り返し周波数の上手い兼ね合いを試行錯誤して見つけていくことになる。また、現状では1.5eVと3eVをポンプ光として用いることができているが、次のステップとしてはより長波長(より低エネルギー)のポンプ光を用いることで、いわゆるFloquet状態の探索も可能にする。このようにポンプ光のエネルギーを変化させるに当たり、光パラメトリック増幅技術が必要になってくる。また、銅酸化物高温超伝導体Bi2212におけるBiの浅い内核の時間分解光電子測定も行う。2次電子などによって乱されずにシグナルを取り出すにはプローブ光として高いエネルギーを用いることが有利である。高次高調波発生をより効率よく行うセットアップを模索して、今後は100eVを超えるエネルギーを標準的に選択できるように装置改良も行っていく。
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