2016 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロ波交番電磁界の印加によるナノシート積層構造光触媒の電子移動制御
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15J08370
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岸本 史直 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 光触媒 / ナノシート / ヘテロ接合 / 光誘起電子移動 / 電子構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究成果では、チタン酸ナノシートとタングステン酸ナノシートの積層体にRu錯体とPt錯体を場所選択的に固定化した構造体を創出し、水の還元反応に対する光触媒能を実証した。この構造体中ではチタン酸の伝導帯からタングステン酸の伝導帯への望まない電子移動反応が進行してしまう。この伝導帯間の電子移動のダイナミクスを明らかにし、最適なナノ構造体の設計指針を立てることが必要であり、今年度はこれに取り組んだ。 ナノシート積層構造体中に紫外光を照射することで起こるナノシート間の伝導帯間の電子移動を、タングステン酸伝導帯に蓄積される電子の近赤外吸収を利用して定量的に評価した。結果として、層間距離が狭いほど光誘起電子移動反応が効率的に起こると結論した。 一方で、ニオブ酸ナノシートとタングステン酸ナノシートの積層構造体を創出したところ、タングステン酸の伝導帯に電子を蓄積させることができなかった。これは、積層構造体中でのナノシート間の電子的な相互作用によるものではないかと予想した。この相互作用は、Z-scheme電子移動系の構築に向けて極めて致命的であるため、試料粉体の拡散反射スペクトルによって解明を試みた。タングステン酸のバンドギャップ遷移に帰属できる吸収ピークがナノシート間の距離が近づくにつれて短波長シフトした。 ニオブ酸とタングステン酸の積層構造体では、ナノシート間の距離が極めて近く(<0.63 nm)、ニオブ酸とタングステン酸の間での電子的な相互作用があり、光吸収特性が変化したと考えた。その相互作用の影響でニオブ酸とタングステン酸は独立の電子構造を持たず、伝導帯間の電子移動によるタングステン酸の伝導帯電子の蓄積が起こらなかったと説明できる。ここで発見した相互作用は、既存の研究蓄積から説明することができず、本研究のようなナノ構造の光触媒を設計する上で極めて重要な先駆的知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度、ナノシート積層構造体の光化学特性の詳細な解明に取り組んだ。当初の計画では、ナノシート積層構造体の光触媒能に対するマイクロ波効果に取り組む予定であった。この方針の変更は、ナノシート積層構造体中で複雑な光化学過程が起こっていることが分かり、本質的なマイクロ波効果を明らかにするためには、個々の光化学過程のダイナミクスを十分に理解する必要があると判断したためである。 申請当初には予期しなかったナノシート積層構造体の特異な光物理特性を発見し、さらにこの構造体中で起こる光電子移動解析に大きな進歩があったため、期待以上の研究の進展、深化があった。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノシート積層構造体中において、ナノシート間の相互作用による電子構造の変化を発見した。このメカニズムを明らかにすることで、本質的なナノ構造光触媒中での電子移動ダイナミクスを論じることができる。特に、本研究で発見した相互作用はn型半導体どうしのisotypeヘテロ接合で起こるものであり、p-n接合体と比較してその研究蓄積は格段に少ない。しかしながら、多くの光触媒の研究では、n-n接合体は効率的な光触媒として報告されている(TiO2-WO3, BiVO4-WO3など)。 そこで最終年度である本年度は、前半期位においてn型半導体単結晶基板に堆積したタングステン酸ナノシートの電子物性の基礎評価を行い、ヘテロ接合によって引き起こされるタングステン酸ナノシートの電子構造の変化を明らかにする。電子構造が理解できたところで、後半期にはマイクロ波を利用したナノシート積層構造体の人工光合成系を創出する。
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Research Products
(10 results)