2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J08467
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 龍二 東京大学, 工学(系), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 二次元物質 / 半導体 / バレートロニクス / 非相反伝導 / 電子ビームリソグラフィー / 反転対称性の破れ / グラフェン |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェンに代わる次世代層状物質として、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)が注目を集めている。これはTMDにおいては、高い電子易動度に加え重い元素由来の大きなスピン軌道相互作用によって、「バレー」というスピン自由度に加わる新たな量子力学的自由度が利用可能であるためである。本研究では、従来注目を集めてこなかったTMDの結晶多形において新たな量子現象を見出したので、報告する。 今年度はTMDにおける「非相反伝導現象の観測」をおこなった。これまでのバレーデバイス実用化の試み磁場によってバレー偏極状態を作り出し、電気信号によってそれを検出するデバイスは報告がない。よって、本研究では、これを「非相反伝導現象」を用いて観測することを目的とした。 非相反伝導現象の説明をする。この現象は、反転対称性の破れた物質において、p-n接合を作ることなしに整流性を持つことである。これまで、カーボンナノチューブやSiトランジスタ、有機物等で存在が確認されている。この整流性を検出するために、高感度な2倍波をもちいたロックイン測定を自ら考案し、実践した。 3R-MoS2単結晶にスコッチテープ法を用いて作製したナノフレークに対して、電子ビームリソグラフィーを用いてデバイスを作製した。これに対して2倍波ロックイン測定を適用して観測した整流性を得た。非相反伝導現象の特性より、磁場に対して2倍波信号が線形であることが期待されていたが、実験結果はそれに符合した。このことは3R-MoS2において非相反伝導現象が存在することを意味する。また、本現象を説明するために共同研究者に理論作製を依頼し、本現象がバレー自由度由来である可能性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、当初計画に挙げていた、PLD法などを用いた材料開発はほとんど進まなかった。これは、当研究室の他のグループがMBE法による材料開発を始めたため、PLD法による薄膜作製に意味がなくなったためである。また、バルク材料に対する磁性ドーピングも一時期試みてはいたが、全く成果を挙げなかった。 これに対して、今年度は別の研究(非相反伝導現象の観測)において大きな成果を挙げた。この研究の進展した理由は、当該年度において申請者が電子ビームリソグラフィー法を習得し、マイクロデバイス作製に取り組めるようになったからである。また、微小信号検出のために2倍波ロックイン測定を確立したことも大きく寄与した。本研究は、バレーデバイス実現への端緒であり、大きな学術的な意義がある。 区分を「やや遅れている」としたのは、当初計画部分は全く成果を挙げなかったが、それ以外の領域においては十分な成果を挙げたことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究計画を大きく変更する。当該年度の研究において判明したことは、2次元物質を2次元のまま作製方法を変えたり、ドーピングを行うことは非常に難しいということである。一方、電子ビームリソグラフィーを用いたマイクロデバイスをTMDに対して適用し、TMDのミクロの性質を抽出することは有効であることも同時に判明した。 よって、今後はTMDの様々な結晶多形においてマイクロデバイスを作製し、その豊かな物性を引き出すことに専念する。
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Research Products
(4 results)