2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトジラミ嗅覚受容体の匂い応答特性の網羅的解明を通じた体臭検出センサ素子の開発
Project/Area Number |
15J08606
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩松 琢磨 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
Keywords | ヒトジラミ / 嗅覚受容体 / 応答特性 / 行動制御剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はヒトの体臭を選択的に検出するセンサ素子の開発を目的とした.その達成のため,本年度はヒトジラミの行動解析および嗅覚受容体(Pediculus humanus corporis olfactory receptor: PhOR)の応答特性解析に取り組んだ. 研究計画時には,匂いセンサのセンサ素子として利用可能となるPhORおよびPhOrcoを発現したセンサ細胞を構築し,それを用いてヒトの体臭成分を含む100種類の匂い物質に対する応答特性を解析する予定であったが,構築したセンサ細胞は対象とした匂い物質に対して有意な蛍光強度の増加を示さなかった.そこで,アフリカツメガエル卵母細胞発現系により各PhORおよびPhOrcoを発現したアフリカツメガエル卵母細胞を用いてヒトの体臭成分を含む100種類の匂い物質のうち92種類の匂い物質に対する応答測定を実施し,ヒトジラミ生体で機能する5種類のPhORの応答特性を明らかにした.これらの結果から,ヒトジラミが検出可能な匂い物質を特定することができ,ヒトの体臭成分中の100種類の匂い物質の中から,ヒトジラミが宿主特定に使用している可能性がある匂い物質が示された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトの体臭を選択的に検出する匂いセンサ素子の開発のため,コロモジラミの嗅覚機能に着目し,その嗅覚受容体の機能解析に取り組んでいた.当初予定していたSf21細胞において,嗅覚受容体の応答を取得できないという問題にもアフリカツメガエル卵母細胞発現系と別の手法を用いることで対応し,コロモジラミ生体で機能している5種類の嗅覚受容体の92種類の匂い物質に対する応答特性解析を達成している.さらに試行する匂い物質数を増やすことで応答特性情報の拡充,および嗅覚受容体の機能解明への発展が期待される.またコロモジラミ生体の匂い物質に対する行動解析により,嗅覚受容体の生体機能の知見を得ており,今後の検証により生体における嗅覚受容体の機能解明に繋がることも期待される. また,ヒトジラミが検出可能な匂い物質を特定するため行動試験を実施する予定であったが,アフリカツメガエル卵母細胞発現系により各PhORの応答特性が明らかになったことから,ヒトジラミが検出可能な匂い物質に関する知見を得ることができた.そこで,PhORの応答が生体においてどのような嗅覚行動を解発するのか検証するため,PhOR2またはPhOR3が応答を示す匂い物質に対する行動試験を実施した.その際,行動試験手法の改良を行い,個体のヒトジラミの匂い物質に対する行動を画像解析により評価する手法を確立した(Iwamatsu T., et al., 2016).その手法により,PhORが応答を示す複数の匂い物質がヒトジラミに対して忌避行動を解発することを明らかとした. これらのことから,本年度の研究は研究計画に従い順調に進展している.
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度はヒト体臭成分中のうち92種類の匂い物質に対する応答特性を解明したが,残る8種類の匂い物質に対する応答測定は実施されていない.これらの匂い物質は一般的に市販されていない匂い物質であり,別途合成委託等の必要性があるため,入手が非常に困難である.そのため,次年度は5種類のPhORのうち,92種類の匂い物質に対して応答を示さなかったPhORに注目して研究を推進する予定である.この応答を示さなかった3種類のPhORは92種類の匂い物質に対して応答を示さなかったがアフリカツメガエル卵母細胞発現系において,応答を示した2種類のPhORと同程度のタンパク質量が発現していることをウェスタンブロッティングにより明らかにしている.そのため,初年度に試行した匂い物質以外のヒト体臭成分あるいはその他の環境中の匂い物質に対して応答を示す可能性が想定される.ヒトジラミはその糞中のアンモニウム塩に対して集合する性質をもつことから,次年度は応答を示さなかった3種類のPhORのアンモニウム塩を含む他の匂い物質に対する応答測定を実施することで,これらのPhORの応答特性を明らかにする予定である.これによりヒトジラミが匂い物質の検出に利用しているPhORの応答特性,応答パターンの網羅的な解明が可能となり,各PhORの生体における機能解明にまで発展することが期待される.
|