2015 Fiscal Year Annual Research Report
深海熱水噴出域固有動物群の生物地理および初期生態に関する研究
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15J08646
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢萩 拓也 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 化学合成生態系 / 底生生物 / 初期生活史 / 個体群動態 / 進化生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱水噴出孔周辺には、化学合成細菌が作り出す一次生産に支えられた特異な生物群集が生息している。熱水域動物の多くは底生であり、浮遊幼生期が個体の分散、集団の維持、種の地理的分布の決定および進化過程に重要な役割を果たす。しかし、これら動物の集団形成機構には未解明な点が多い。本課題では、三大洋の熱水噴出域に分布する固有動物シンカイフネアマガイ亜科の貝類を材料に、固有動物群が熱水噴出域へ、いつ、どういった環境から進出し、どのように個体群を維持しているかを統合的に検討する。平成27年度の実施内容は以下の通りである。1)詳細な形態観察と分子データの対比による種多様性の把握:太平洋、大西洋およびインド洋の熱水噴出域から既知の2属4種に加え、少なくとも7未記載種を確認した。2)飼育による初期生態の解明:ミョウジンシンカイフネアマガイの幼生について、行動観察と遊泳速度の定量を行うとともに、異なる温度条件での長期間飼育により成長・生残の至適水温を明らかにし、海洋中での分散水深の推定を行った。3)遺伝的集団構造の解明:ミョウジンシンカイフネアマガイについて既知の分布域全てを含む熱水噴出域間での海流分散の程度を明らかにした。飼育および集団遺伝解析の結果は、本種幼生が表層で成長・分散することを示唆するものであり、熱水域固有動物の表層分散を実験的に示す初の研究となった。これらの結果について、14th Deep-Sea Biology Symposium(ポルトガル)および日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、世界中の熱水噴出域に分布するシンカイフネアマガイ亜科貝類の種多様性の評価および初期生態の解明に取り組んだ。特に初期生態に関する研究では、北西太平洋の熱水環境からシンカイフネアマガイ類の成体を採集した後、研究所実験環境下において卵嚢から孵化幼生を得、半年間の飼育を行うことで幼生の行動・生理生態学的特徴を明らかにした。これまで深海熱水噴出域に生息する動物幼生を用いた長期の飼育研究例は少ない。本年度取得した実験データは極めて新規性に富むものであり、幼生の生態学的知見に基づく海洋分散機構の考察を可能にした。さらに分子生物学的手法を用いた海洋分散の評価とも高い整合性が見られた。当初の計画に沿った実験を行い、成果を得ている理由により、本研究は順調に進展していると結論付ける。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、三大洋の深海熱水噴出域で網羅的に採集されたシンカイフネアマガイ亜科貝類標本および近縁動物群標本を用いて以下の研究を実施する。1)シンカイフネアマガイ類の核およびミトコンドリアDNAの塩基配列を決定後、分子系統樹を作成し、熱水環境への進出起源を考察する。近縁動物群・化石記録を用いて分岐年代推定を行う。2)ミトコンドリアCOI遺伝子の塩基配列約1.2 kbpを用いた集団解析を行い、南西太平洋(ラウ・マヌス・フィジー海盆)および大西洋(中央海嶺)に生息するシンカイフネアマガイ類の遺伝子流動の程度を評価する。昨年度実施した北西太平洋(沖縄トラフ・伊豆小笠原諸島海域)の研究と対比を行う。これまでに獲得した知見をもとにシンカイフネアマガイ亜科貝類の集団形成機構を考察し、熱水種の初期生態および生物地理に関する一般性の議論を行う。
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Research Products
(3 results)