2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J08671
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
高木 亙 国立研究開発法人理化学研究所, 倉谷形態進化研究室, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 胚体外器官 / 尿素合成 / RNAseq / 円口類 |
Outline of Annual Research Achievements |
円口類(ヤツメウナギ・ヌタウナギ)は進化を考察する上で重要な系統位置を占める動物群であるが、ヤツメウナギとヌタウナギではその生活史や体液調節機構が大きく異なる。本研究では顎口類と、この2種の現生円口類を用いた比較解析によって、脊椎動物体液調節機構の多様性とその進化を研究することを目的としている。しかしながら、今年度は円口類の試料がうまく得られず、当初予定していたRNAseq解析に必要な数を得られなかった。これは受精に必要な個体の多くが未成熟であったことや赤潮による不漁など、外的要因によるものが大きい。ヤツメウナギ・ヌタウナギはそれぞれ春と秋に繁殖期が限定されているため、次の繁殖シーズンにむけて飼育水槽を複数設置し、未成熟個体については生殖腺刺激ホルモン(GTH)の投与が有効かどうかを検証するなど、確実に試料を得るための対策を講じた。 また、RNAseq解析によって得られる予定だった遺伝子の配列情報がない中、公開ゲノム情報から相同遺伝子の探索を行い、cDNAクローニングによる候補遺伝子の単離同定や分子系統解析も平行して進めている。ヤツメウナギに関しては、既に公開されているゲノムデータベースを元に窒素代謝関連酵素の有無を解析しており、硬骨魚真骨類と同様に尿素合成能が失われている可能性が高いことを明らかにした。さらに分子レベルの実験だけでなく、形態学的な知見を得るため、各生物の発生過程で浸透圧調節器官や内分泌器官の発生についての詳細な観察もおこなった。特にヌタウナギの胚を用いた解析では、ヌタウナギ甲状腺が顎口類と同様の発生パターンを有する可能性が示唆されており、今後の展開として、脊椎動物甲状腺の進化についても重要な知見が得られると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで円口類のサンプル採集が難航している。特にヤツメウナギに関しては、平成27年度は全国的に大型の雌雄成熟個体の水揚げが少なく、十分な数の卵を入手できないことが6月の時点で判明した。6月以降は別の入手経路を模索したが、ヤツメウナギの産卵期は春に限定されており、サンプル採集が翌年度以降に持ち越しとなった。ヌタウナギに関しては赤潮の影響で個体数が激減したことが致命的だった。サンプルが採取できていた場合はRNAseq解析を計画しており、そこから得られたデータは目的遺伝子の単離同定や、in situ hybridizationのプローブ設計、遺伝子発現データベースの構築など、多くの実験に使用される計画となっていたため、結果として研究計画に遅れが生じた。しかしながら、公開されたゲノム情報等を元に、候補となる遺伝子に対する縮重プライマーを設計し、cDNAクローニングをおこなった。これまで、いくつかの尿素回路酵素遺伝子(CPSI/CPSIII, OTC)や尿酸の代謝経路に関わる遺伝子は円口類で同定されず、これらの代謝経路が円口類の系統で二次的に消失した可能性を見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
ヤツメウナギの生態調査を行っている研究者や現地の漁協と連絡をとり、資源情報を提供してもらうことで、平成28年度春のサンプリングに備えている。また来年度は、飼育環境を研究所内の水槽と現地の2箇所に分け、リスクを分散する。また、その他の問題点として、業者から購入した個体のうち、未成熟個体の割合が多かったことが挙げられる。この点については、未成熟個体に組換え生殖腺刺激ホルモン(GTH)の投与を行うなどして、人工的に性成熟を促し、卵を得る方法を考えている。 また、発生初期の窒素代謝様式について、報告者は既にゾウギンザメの発生初期に胚体外組織である卵黄嚢上皮が胚体に代わって尿素合成の役割を担うことを見出している。この現象が全頭類であるゾウギンザメ特有のものなのか、板鰓類を含む軟骨魚類に広く見られる現象なのかどうかを明らかにするため、トラザメを用いて同様の解析を行う予定である。 最後に、報告者が窒素代謝の切り替え因子として着目している甲状腺ホルモンの合成器官、甲状腺(円口類ヤツメウナギでは内柱)の形態学的な比較を種々の脊椎動物に対しておこなう。これまでヌタウナギの甲状腺の発生については100年以上報告がなく、同じ円口類のヤツメウナギのように、内柱様の形態を経て甲状腺が生じるのか、直接発生するのかは議論の対象となっていた。今年度の組織学的観察から、ヌタウナギ甲状腺が顎口類と同様に咽頭底から直接出芽する可能性が示唆されており、今後はより詳細に各発生ステージの胚を観察し、脊椎動物甲状腺の進化についての新たな仮説を提示できるのではないかと考えている。
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