2016 Fiscal Year Annual Research Report
「すざく」とASTRO-H衛星で解明する弱磁場の中性子星連星:X線放射の統一解釈
Project/Area Number |
15J08913
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野 光 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 中性子星 / 降着円盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
Neutron Star Low-Mass X-ray Binary (以降LMXB)は、低磁場 (<1億 G)中性子星と低質量星 (<1太陽質量)の連星系で、低質量星から中性子星にガスが降着し、1000万度程度の高温になることでX線を放出する。X線で明るいときにはそのX線スペクトルはソフト状態と呼ばれ、軟X線が卓越し、それよりも暗くなるとハード状態と呼ばれ、硬X線が卓越する。ソフト状態は降着円盤からでるX線と、中性子星から出た黒体放射が高温ガスに弱く散乱を受けたX線で説明されることがわかっている。さらに近年の広帯域X線望遠鏡により、ハード状態も同じモデルで説明されることがわかってきたが、異なるモデルでも説明でき、一意に解釈が定まっていない。そこで、ハード状態の解釈を確立するために、ソフト状態とハード状態がどのようにつながっているのかを研究した。 上述の目的を果たすために、日本のX線天文衛星「すざく」を用いた。使用した天体はAquila X-1と呼ばれるLMXBで、1度だけ、増光にともなってハード状態からソフト状態に連続的に移行する瞬間を捉えており、本研究に使用した。1/4日から1/2日の間に、スペクトルの軟X線光度は単調に増加、硬X線光度は単調に減少しており、状態が遷移する様子が分かった。これらを10個の時間帯にほぼ等間隔に分け、これら全てのスペクトルを作成した。 全スペクトルはソフト状態と同じモデルで説明され、全てのパラメータ(円盤の内縁半径や温度)は物理的に妥当な値となり、ハード状態とソフト状態は、同じX線の放射機構で説明できることがわかった。高温ガスの視線上の量とX線光度、円盤の内縁半径などを使って計算することにより、高温ガスが中性子星に落下する速度は自由落下の約4%程度で、幾何学がソフト状態に近づくにつれて扁平になっていくことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光度が変化する天体を解析することで、光度に対する様々なパラメータの変化を得ることができた。その結果、LMXB (低質量連星系)は光度が変化したときに、光度の一価関数として、降着流のジオメトリが変化することがわかった。特に、中性子星近傍の高温ガスが、光度が上昇するにしたがって徐々に扁平に変化することがわかった。一方で、天体の回転面の視線方向からの角度によるX線スペクトルの依存性はまだ解明できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
中性子星連星系 (LMXB)であるAquila X-1やGS1826-238の研究により、X線の光度が約10^37 erg/s以上のときの質量降着の様子を、光度の変化を含めて理解できた。特に、中性子星付近のコロナと呼ばれる高温ガスの幾何学や落下速度、それらの変化に強い制限を与えることができた。しかし光度が高いときに円盤の光度が全光度の50%を超えており、期待される値(50%以下)と異なる。これは、i)コロナの回転運動による光子の散乱が起きている可能性 (バルクコンプトン散乱)、ii)バッテリー効果が起きている可能性、が考えられる。これらが起きている可能性を定量的に見積もり、LMXBの降着の物理を解明する。
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