2016 Fiscal Year Annual Research Report
複数代謝の統合的な制御による植物のストレス応答メカニズムの解明
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15J09097
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
渡邊 俊介 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ストレス応答 / 生理活性物質 / モリブデン補酵素硫化酵素 / モリブデン酵素 / 代謝制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度実施したトランスクリプトーム解析から,シロイヌナズナモリブデン補酵素硫化酵素ABA3がアントシアニンの生合成遺伝子の発現制御に関わる可能性を見出した.そこで本年度は,ABA3依存的にアントシアニン蓄積を誘導する生理活性物質の同定に向けて主に以下の三項目を実施し,成果を得た. (1)ABA3の変異がシロイヌナズナのメタボロームに与える影響を解析した.メタボロームは,約600種類の既知の代謝物の定量測定が可能なワイドターゲットメタボローム解析を用いて調査した.前年度のトランスクリプトーム解析と同様に,低浸透圧ストレスに曝したABA3変異株と,代表的なABA欠損株であるABA2変異株を比較し,ABA3変異株で内生量が減少あるいは増加している数種類の代謝物を得た. (2)ストレスに曝したABA3変異株のアントシアニン内生量を定量した.アントシアンの蓄積を強く誘導する酸化ストレスで処理したABA3変異株のアントシアニン量を定量したところ,予想通りABA3変異株は野生株やABA2変異株と比べて有意に内生量が低下していた.これと同時に,酸化ストレス耐性の指標としてクロロフィル量を測定しABA3変異株で有意にクロロフィル量が減少していることを明らかにした. (3)アントシアニン蓄積を誘導あるいは抑制する低分子化合物をスクリーニングした.アントシアンの蓄積は高濃度スクロースによっても誘導されるがABA3変異株ではその誘導が抑制される.そこで,この変異表現型を回復する低分子化合物をケミカルライブラリーからスクリーニングした.これと同時に,野生株のアントシアン蓄積を抑制する化合物もスクリーニングした.現在までに,理研天然化合物ライブラリー「NPDepo」からアントシアン蓄積に関与する化合物を複数取得している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に実施したトランスクリプトーム解析で示唆されたABA3とアントシアニン生合成の関係に着目し,本年度はABA3がアントシアニンの蓄積誘導と密接に関わることで酸化ストレス耐性に寄与していることを実証した.また,メタボローム解析によってABA3が内生量の調節に関わる代謝化合物が複数存在していることを示した.さらに,ABA3変異株のアントシアニン蓄積を誘導する化合物を取得したことは,ABA3が産生に関わる生理活性物質の同定に向けて強力なツールとなり得る.これらを踏まえると,当初の予定通り本課題はおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では,所有するケミカルライブラリーの一部の化合物に対してスクリーニングを行ったにとどまる.そこでまずは,残りの化合物のスクリーニングを優先的に進める.次に,アントシアニン生合成遺伝子の発現誘導を指標にしたスクリーニングも進める.ABA3変異株で発現が抑制されている生合成遺伝子については,既にプロモータール:ルシフェラーゼ形質転換体を単離済みである.また,これまでに報告されているモリブデン酵素がアントシアニンのストレス誘導的な蓄積に関わるか否かを検証するために,酸化ストレス処理したモリブデン酵素変異体のアントシアニン内生量を調べる.これらと並行して,これまでに得られた本課題の成果を取り纏め,論文として国際誌に投稿する準備を進める予定である.
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