2015 Fiscal Year Annual Research Report
反徒に対する義務賦課と違反者の訴追―現代国際刑事裁判における理論的課題の一側面―
Project/Area Number |
15J09102
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 孟 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 慣習国際法成立の主観的要件 / 各内戦における具体的実行 / 交戦団体承認制度 / 内戦における主要な法源のシフト / State Continuityの原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は修士論文の修正版の公表を念頭に研究を行った(公表は翌年度)。 第一に、反徒集団に対する条約の拘束根拠論における最大の問題である、反徒集団の同意の欠如という点につき、慣習国際法の角度から検討した。特に、条約と異なり慣習法は国家でさえ同意なく拘束できるという前提のもと、慣習法化した条約規定は反徒集団も同意なく拘束できる、と論じる学説の前提部分を検証した。その結果、その前提は一般的見解に反しないと思われる一方、逆の立場をとる論者も存在することが判明した。 第二に、各学説の登場時期と、関連し得る内戦の時期を比較し、学説と内戦での実行の相互関連を探求した。また20世紀以降の内戦の中で、反徒集団に対する条約の適用につきいかなる具体的実行が存在したか調査した。 第三に、内戦を規律する初の条約規定である1949年ジュネーヴ諸条約共通第3条の成立以前から内戦を規律する制度として存在していた、交戦団体承認制度の検討を通じて、現代の拘束根拠論が、同制度といかに連続し、またそこから離脱しているのか整理した。すなわち、現代の拘束根拠論においては、適用される主な法源が同制度の時代の慣習法から条約へとシフトしたことにより、条約法の特質に鑑み同制度から一部離脱する学説が生じた一方、同制度の時代の慣習法の適用という事実を参照して、逆に条約規定の慣習法性に回帰して論じる学説も生じた。こうした中、国内法化説と直接義務説は、反徒集団を反徒個々人に解体して論じる点で同制度と最も異なる方向の議論であると考えられ、特に近年台頭中の直接義務説は、近時の国際刑事裁判の展開と軌を一にしている。 本年度、交戦団体承認制度との関係で拘束根拠論の諸学説を検討したことで、学説間関係につき新たな視点を得た。拘束根拠論をこうした視点から整理した論考は少なく、一見分散した状態の本主題を歴史的視点から再整理したことに意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、反徒集団に対する条約の拘束根拠につき、最大の問題である同意原則との関係を、理論的に検討し切れていない。本年度では慣習法の視角から一定の分析を試みたが、この視角からだけでも予想以上に膨大な研究量を必要とすることが判明した。本来は国際法における同意原則の性質や、その現代における重要性や比重といった点につき、より本格的な検討が必要なところである。もとより、この点を全面的に展開することにはやや限界があり、本主題と関連する範囲で、また本主題の特性、特に国際人道法の特性を踏まえつつ今後研究していく必要がある。 次に、20世紀の内戦全般につき表面的に主な実行を概観することで、当主題において比較的重要と思われる内戦を特定することはできたものの、それぞれの内戦につき本格的な実行の調査を行う段階に至っていない。この点は次年度以降、必要であれば海外での調査も含め、より詳細に研究を行う予定である。また、重要な内戦、特にアルジェリア独立紛争に関わったことでICRC(国際赤十字委員会)の拘束根拠論に関する立場がどのように変化したのか、それが第二条約コメンタリーや第二追加議定書の起草にいかなる影響を及ぼしたのか、といった点の解明は、今年度に浮上した新たな課題である。 こうした研究上の行き詰まりはあったものの、当初は予定していなかった、交戦団体承認制度との関係で論じる手法を新たに着想することができた。この手法を見出しそれに着手し始めた時期が比較的遅かったことが、結果的に予定より研究が遅れている原因である。しかしながらこの手法は、それぞれに異なる国際法の根本的基礎理論に依拠する各学説の優劣を論じる、という当初予定していた手法よりも、より歴史的かつ統一的な視点から各学説を整理することに資する。その点で、この手法に沿って今後研究を行うことで、若干の遅れは取り戻すことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の研究目的であった国際人道法と国際刑事法の関係の把握を本格的に開始する前に、次のような研究を行う可能性がある。すなわち、本年度に行った、交戦団体承認制度と現代の拘束根拠論の間の関係に関する研究を発展させ、内戦を国際法で規律する制度がいかに変遷してきたのか、通史的に研究する可能性がある。 特に、交戦団体承認制度のみの時代から、内戦を主に条約によって規律する時代へと切り替わったジュネーヴ諸条約成立前後の資料を集中的に調査し、前後の制度でいかなる連続や不連続が生じたのかを把握したい。その中で、条約の起草に影響を与えたと思われるスペイン内戦における実行とその評価や、条約成立後、ICRCコメンタリーが最初に発行されるまでの間のICRCの内部資料なども調査する可能性がある。このようにして、交戦団体承認制度が条約成立後いかなる位置付けを与えられたのか、また新たに成立した共通第3条の基本的性格とはいかなるものであったのか、より正確に知ることを目指す。 さらに、ジュネーヴ諸条約成立後、第一・第二追加議定書が作成される1970年代までの期間に多発した植民地独立戦争の扱いにつき、いかなる議論の展開があったかを検討したい。これにより、両議定書で非国際武力紛争(内戦)の類型から民族解放戦争が切り離された背景と、その経緯が生み出した新たな非国際武力紛争の概念の双方を、より正確に理解することができる。 このようにして国際人道法の枠内での歴史的視点を強固にした上で、現代の国際刑事法との関係を把握する当初の計画を遂行してゆく予定である。国際刑事法による国際人道法への影響が本格的に生じる90年代より前に、非国際武力紛争/内戦が国際人道法内でいかに把握され、規律されてきたのかを正確に理解した上でこそ、国際刑事法がもたらした新たな影響をより正確に浮き彫りにすることができると考えている。
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