2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J09132
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 弓 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 記憶 / コミュニティ / 集合的記憶 / 語り / 中国農村研究 / オーラルヒストリー / 歴史 / 日中戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、フィールド調査、論文執筆、研究会発表、そしてシンポジウムやワークショップへの参加を通して研究を進めた。フィ ールド調査では①雨乞いの復活と現状、②廟会、③雨乞いの起源神話である「趙氏孤児」の物語について聞き取りを行った。そこから、中国における信仰のコミュニティの存在、それを維持する物語と記憶の役割、そして農民たちが政府の禁じた信仰活動と如何にかかわってきたのかを探った。並行して「趙氏孤児」に関する明清期の資料を収集し歴史と語りの比較を行った。各詳細は以下の通りである。 ■フィールド調査:①5月18-23日、山西省太原市にて山西大学の研究者との研究交流を行った。盂県農村にて、復活した大王廟会への参与観察、上ボク頭村で社会主義時代の破壊を逃れて保存された大王像について聞き取りを行った。②9月16-22日、前半は南社村、武家荘、上文村を訪れ、「趙氏孤児」の伝説と雨乞いに関する聞き取り調査、後半は北京国家図書館にて、近現代史研究書(蔵山、趙氏孤児、雨乞い関連)、明清期の盂県誌及び歴代趙氏孤児台本の閲覧とコピーを行った。調査では、各村で口頭伝承されてきた「趙氏孤児」を聞き取ったこと、また文革期に大王廟の取り壊しを行った村人たちにインタビューをしたことが大きな収穫となった。 ■研究会:愛知教育大学で開催された「戦争と社会主義のメモリースケープ研究会」で、社会主義の側面から本研究を見直す発表を行った。それにより、ベトナム、ロシア、東欧、キューバとの比較による戦争記憶研究の新しい切り口を見出した。また、東京大学東洋文化研究所で開催された「学問を考える会」にて、本研究を題材に国内外の研究者と議論を行った。 ■その他:英語雑誌Oral History Forumの特集号編集を行った。また、GHCの主催する複数のシンポジウムへ参加し、オーラルヒストリーをグローバルな視点につなげる知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた上ボク頭、水嶺底、及び南社村を中心とした地域での聞き取り調査を順調に進め、南社一帯での雨乞いの復活状況について把握することができた。蔵山の再訪及び文献史料からは、かつての雨乞いのコミュニティが如何なる範囲と形式によって広がっていたかを明らかにした。また、雨の神である大王像は、戦後の政治運動によって全て破壊されたと考えられていたが、調査地域の2村では、文革期を通して村内で秘密裡に保管され、そうした大王像の存在が近年の雨乞い復活を後押ししていたことが分かってきた。大王像移動による信仰のコミュニティ(=「記憶空間」)が、想定された以上に広範囲に広がっていることを明らかにしたことは、当初予想していた以上の成果である。これらは、今後大王信仰を通した農村の「記憶空間」やコミュニティの復活を考察する土台となると考えられる。また、英語での論文執筆及び英文ジャーナルの編集を行ったことは、成果を広く普及させると共に、英語圏の研究の吸収によって、本研究遂行により広い視点をもたらした。しかしながら、昨年度中に第二子を妊娠し、論文執筆の面で遅れが出たため、全体的に見て、おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査結果から得られた論文を英語で執筆し、広く公表していく。また、今年度3月にはイギリスへ渡航し、本研究と関連する国際共同研究を開始する。イギリスでの共同研究の実施により、本研究や調査で得られた中国農村の実態に対して如何なる角度で記憶及びコミュニティの分析を行うか、それを英語圏の学界に如何なる形で提示していくのか、本研究の国際的な位置づけを確認すると共に 、方法論の刷新を行う。 これまでのフィールド調査によって、中国農村には社会主義時代の迷信打破運動に参加した人々と反対した人々が共存しており、近年の雨乞い復活について複雑な思いを抱いていることが明らかになってきた。社会主義時代の政治運動の歴史を振り返る意味でも、雨乞いの「復活」の側面ばかりでなく、その背後にある歴史やコミュニティ内の「反復活」の動きや複雑な人間関係について、詳細なインタビューを行っていく。また、物語が記憶やコミュニティを維持するという実態も見出されてきた。雨乞いの起源神話である「趙氏孤児」は、歴史や歌いものとして知られるが、各村ではその村と関連した「趙氏孤児」の物語が口頭で伝えられており、それを聞き取ることで物語から歴史と記憶を論じていく。 資料収集においては、歴代の盂縣誌(1522年、1702年発刊)の収集によって、盂県農村調査で聞き取られる「趙氏孤児」の語りの一部が、明代(1522年)に「歴史」として文字資料に残されたもので、清代(1702年)より文字資料から脱落して伝説として語られ始めたことが分かってきた。今後これらの資料からは、歴史と記憶の絡み合いと分岐のプロセスを見出す研究を行っていく。
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