2015 Fiscal Year Annual Research Report
特許権が経済成長や社会厚生に与える影響の動学的分析-防衛特許を中心として-
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15J09530
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
丹羽 寿美子 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 知的財産権 / 経済成長論 / 防衛特許 / 特許政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は以下の2つの研究を行った。 1. 垂直方向と水平方向の2つのR&D部門で防衛特許が発生するモデルを構築し、特許権の保護が強化された場合、経済成長や社会厚生に及ぼす効果について分析を行った。 2.新しい特許政策の手法である特許の「距離」を導入して、防衛特許の程度が技術の類似性に依存するというメカニズムをモデル化した。 1の成果であるNiwa(2016)はEconomic Modellingに採択・掲載された。2については来年度中に論文にまとめ、国際学術誌に投稿予定である。 まず1の研究では防衛特許が垂直方向と水平方向の2つのR&D部門で発生するモデルを用いて、これら2つの防衛特許がそれぞれ強化されたとき、すなわち最先端の技術を持つ企業の特許権が強化され、後発企業から支払われるライセンス料が増加した場合に、経済成長や社会厚生に及ぼす効果について分析を行った。 結果(1)垂直的な防衛特許と水平的な防衛特許は、イノベーションに対して正反対の影響を及ぼすことを理論的に明らかにした。またこれらの効果を用いて(2)二つのタイプの防衛特許を組み合わせることによって、各R&D部門でのイノベーションを制御できること(3)社会的に望ましい資源配分を達成できること、という結果をそれぞれ示すことができた。 次に2の研究では、新しい特許政策の手法である特許の「距離」を導入して、防衛特許の程度が企業間の技術の類似性によって内生的に決まるようなモデルを構築した。新規参入企業にとっては距離が離れているほど、既存の技術との類似性が低く、支払うライセンス料が低くなる。この設定のもとでは、既存企業の権利を守るために保護が強化された場合、新規企業にはより距離の遠い財を発明して支払うライセンス料を減らそうというインセンティブが働くが、一方で距離が遠いほど新しく財が発明される確率は低くなるという効果も含まれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の計画通り、上記1の防衛特許に関する研究を行い、各種セミナーやコンファレンスで報告を重ね、その成果を国際学術誌Economic Modellingに発表することができた。続く研究にもすでに取り組んでおり、上記2の研究について引き続き分析を行い、論文としてまとめ次第、国際学術誌に投稿予定である。以上の理由から、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では以下の内容を中心に行う予定である。
1. 上記2の研究について、引き続き分析を行いワーキングペーパーとしてまとめる。その後、国際学術誌に投稿する。 2. すでに取得された大量の特許権が新たなイノベーションを阻害するモデルを作り、既存研究で行われている防衛特許とは異なる、より現実を反映させた新しい防衛特許の分析を行う。 3. 各種セミナーやコンファレンス等で報告し、得られたアドバイスやコメントをもとに、論文を洗練させる。
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