2016 Fiscal Year Annual Research Report
4-10世紀後期ローマ帝国、ビザンツ帝国における去勢慣行と宦官の位置付け
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15J10209
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
紺谷 由紀 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 去勢手術 / ビザンツ帝国 / 聖人伝 / 医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度において、7世紀のビザンツ帝国における去勢手術の実態について解明することを試みた。中でも帝国首都コンスタンティノープルで執筆されたと考えられる『聖アルテミオスの奇蹟譚』において描写される、患者の夢に現れた聖人が様々な手法で男性生殖器の疾患を「治癒」する奇蹟の場面について検討を加えた。その際、同時代のアレクサンドリアの医師アエギナのパウロス『医学要覧』に記された生殖器の疾患についての手術法を比較することで、より具体的な手術法を浮き彫りにすることが可能になった。この研究成果については、7月に研究会Decoding the historical Sources on Byzantiumにおける口頭報告に加え、‘Castration as medical treatment: the Miracles of St. Artemios and Paul of Aegina’ の題で『史苑』に掲載される予定である。またその他の学術誌への発表として、「ローマ法における去勢―ユスティニアヌス一世の法典編纂事業をめぐって―」(『史学雑誌』125編第6号)が挙げられる。他方、国内での学会に関しては西洋史学会(慶應義塾大学)、西洋中世学会(東北大学)、歴史学研究会(明治大学)、史学会(東京大学)、ビザンツ学会(大阪市立大学)に参加し、他の研究者との交流を深めた。 また海外調査として、8月から9月にかけてイギリスに滞在し、その間にエジンバラで開催されたTokyo Edinburgh Humanities and Law Seminarでは、同大学所属の研究者に対して、自身の研究を英語で報告する機会を得た。さらにオックスフォードに滞在し、オックスフォード大学図書館において国内では手に入らない一次史料、二次文献の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
使う史料等に若干の変更が生じたものの、従来の計画である4-10世紀のローマ、ビザンツ帝国社会における去勢者の定義や法史料上の位置づけに関して、研究文献の収集や史料読解を進めているため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、今年度は中世西欧社会における去勢慣行について分析を行う予定であった。しかし、研究の過程で新たに取り組むべき課題が生じたため、ビザンツ法、ビザンツ社会における去勢・去勢者の分析を優先的に行うことにする。6世紀の皇帝ユスティニアヌス1世の法典編纂以後、法史料は様々な形で後の時代に伝えられ、9, 10世紀には、ビザンツ皇帝により『バシリカ』等の新たな法典編纂事業が行われた。それ故、これらの史料を分析することで、2つの編纂事業間の変化を明らかにすると同時に、その他年代記、聖人伝等の史料を用いて、当時の去勢者に対する見方についてさらに検討を加える。またその際には、去勢者を表す上で密接に結びつく、「奴隷」、「外国人」というカテゴリーにも注目し、比較を試みる予定である。そして最後に、これまでの研究の成果を総括し、後期ローマ・ビザンツ帝国における去勢者について、その歴史的意義を捉えなおす。 前年度に引き続き、国内での学会に積極的に参加し、専門外の研究者たちと積極的に交流することで自身の知見を広げるよう努める。また海外での史料・文献調査も継続的に行う予定である。
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