2016 Fiscal Year Annual Research Report
月探査機「かぐや」の連続スペクトルデータを用いた月の玄武岩組成の研究
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15J10249
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 伸祐 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 月の海 / 玄武岩 / 鉱物量比 / 元素組成 / 火成活動史 / 連続スペクトル |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は前年度までに検討した解析手法を用いて月探査衛星「かぐや」によって得られた連続スペクトルデータを用いて月の海の玄武岩の鉱物量比と元素組成を調査する計画であった。実際には、スペクトルの解析を行うにあたり、幾つかの問題点が明らかになったため、以下のような順序で当該年度の研究を行った。 まず、前年度から行っていた月の表のProcellarum KREEP Terrane(PKT)と呼ばれる領域の層序関係の調査を継続して行った。その際、昨年度の調査領域では若い玄武岩の分布を十分にカバーできていないことが分かったため、新たにデータをダウンロードし、新しい月面地質の分類図を作成した。これによって、月の後期の火成活動で噴出した溶岩流の分布を正確に把握することができた。次に、若い溶岩流に部分的に埋められたクレーターの形態を用いて、後期の溶岩流の厚さの分布を定量的に求め、後期の溶岩流の厚さ分布図を作成した。これにより、クレーター壁面のスペクトルを解析する際に、そのクレーターが後期の溶岩流を掘り抜いてしまっていないかどうかの定量的な評価が可能となった。 スペクトルの解析手法については、鉱物の元素組成に関するパラメーターのモデル化についての検討を追加で行った。Wo#(=Ca/(Ca+Mg+Fe))で表される輝石中のカルシウム量は一回の噴出で出た玄武岩の中でも多様性があることがアポロ試料のデータから分かっている。このため、スペクトルの解析では平均としての値にバリエーションによる効果が足された形でWo#を算出できるように改良した。 最後に、スペクトル解析手法を幾つかの領域で実際の月面のスペクトルに適用し、月の海の玄武岩の鉱物量比と元素組成を求めた。その結果、月の若い火成活動の玄武岩は古い玄武岩に比べて、カンラン石の量比が多く、Wo#が高いことが分かってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は本研究の軸となる解析である、月の海の玄武岩の連続スペクトル解析手法を構築し、実際のデータに適用することができた。その結果として、海の火成活動の若い玄武岩の鉱物学的・組成的な特徴が明らかになってきた。これは当初予測していた通り、玄武岩のソース領域に関する議論をするのに有効な結果であり、本研究の進展はおおむね順調であるといえる。 また、本年度はハワイ大学の連続スペクトル解析の先駆的研究を行っている外国人研究者のもとでインターンシップを行い、本研究で使っている解析手法とは別の手法を学んだ。この手法は、本研究で用いる手法と相互確認的に用いることができ、本研究の手法の妥当性を検証する上で有用である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の展開としては、まず本研究の連続スペクトルの解析手法が玄武岩の鉱物量比や元素組成を算出するにあたってどの程度まで有効かを検証する。この際、ハワイ大学でのインターンシップで学んだ手法が有効に利用できると考えられる。具体的には、模擬的に玄武岩のスペクトルを生成し、本研究の解析手法でモデルどおりの鉱物量比と元素組成が求められるか検証する。 また、解析する領域を増やし、月の火成活動の鉱物量比と元素組成の時間変化や空間変化を明らかにする予定である。そして、観測されたそれらの結果を説明できる月マントルの熱進化モデルを構築する。最後に、本研究で得られた成果をまとめ、博士論文として提出する予定である。
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Research Products
(4 results)