2015 Fiscal Year Annual Research Report
パーキンソン病原因遺伝子産物PINK1とParkinの構造基盤の確立
Project/Area Number |
15J10559
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
尾勝 圭 東京大学, 放射光連携研究機構, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | パーキンソン病 / ミトコンドリア / ユビキチン / PINK1 / Parkin / マイトファジー |
Outline of Annual Research Achievements |
パーキンソン病は高齢者の羅患率が高い疾患である。PINK1とParkinは遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子であり、パーキンソン病の原因を理解するためにも両者の機能と制御機構を明らかにすることが望まれている。PINK1はミトコンドリア局在型セリン・スレオニンキナーゼであり、Parkinはユビキチンリガーゼである。2008年にParkinがミトコンドリア膜電位の低下した不良ミトコンドリアに局在することが報告された。その後、PINK1は正常なミトコンドリアではPARLなどのミトコンドリア局在型プロテアーゼによって限定分解を受ける一方で、ミトコンドリア膜電位低下に伴って初めて安定的にミトコンドリアに局在できることが明らかとなった。その際に、2分子のPINK1がミトコンドリアタンパク質輸送体(TOM複合体)と相互作用していると同時に自己リン酸化に依存する活性化を受けることが明らかとなった。PINK1の基質は単量体ユビキチンや鎖状ユビキチンとParkin (Ublドメイン)である。リン酸化ユビキチンはParkinの活性化因子として働くと同時にParkinをミトコンドリア上に局在させるレセプターとしても働く。不良ミトコンドリアに局在したParkinはそのミトコンドリアをユビキチン化し、それが引き金となってより多くのParkinをリクルートすることができるようになる正のフィードバックが働くことが示されている。このような不良ミトコンドリア処理機構を細胞生物学的手法と生化学的手法によって明らかにされてきたものの、これら制御機構や基質の選択性を原子レベル解析した知見は乏しい。2013年に国外の複数の研究グループは自己阻害型Parkinの立体構造を明らかにし、続けて、活性中間体の立体構造も明らかにしている。本研究では未だに報告のないPINK1の立体構造解析に焦点を当てて研究を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PINK1はミトコンドリア型タンパク質リン酸化酵素であり、ユビキチン (Ub) とParkinのユビキチン様 (Ubl) ドメインの65番目のセリン残基を選択的にリン酸化する。また、細胞内におけるPINK1の酵素活性は自己リン酸化によって制御されている。先行研究により、コクヌストモドキPINK1 (TcPINK1) が大腸菌で良好に発現して、酵素活性を持つことが示されているので、研究対象としてヒトPINK1とTcPINK1を用いた。実際に大腸菌で発現を行うとヒトPINK1は分解産物が多かったが、TcPINK1は十分な量を得ることができた。しかし、TcPINK1は多くのセリン・スレオニン残基が偶発的かつ不規則に自己リン酸化されており、均一なリン酸化状態のサンプルを得ることが困難であった。そのため、まず触媒残基であるアスパラギン酸残基をアラニン残基に置換した不活性化変異体を作製したが、不安定で沈殿する傾向があり、結晶化に適する濃度まで濃縮できなかった。次に疑似リン酸化型のTcPINK1の作成を行った。先行研究を基に、主要なリン酸化部位に変異を導入したが、依然としてリン酸化状態にあり、別のリン酸化部位の存在が示唆された。LC-MS/MS解析点変異体解析から、ある1ヶ所に変異を導入することでこれまでよりも均一なサンプルを調製することができた。それでも尚、PINK1は微量の自己リン酸化されていた。そこで、全てのセリン・スレオニン残基をグルタミン酸に置換した変異体を作成した。この変異体は安定かつ均一な状態であった。今年度の研究で、リン酸化部位を同定し、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーのピークも良好なサンプルを精製できるようになった。2種類の基質分子と各々のS65A変異体も作製しているので、現在、結晶化スクリーニングを開始している。
|
Strategy for Future Research Activity |
疑似リン酸化変異体は依然として僅かにリン酸化された状態にあり、完全に均質ではないので、より均質な状態のPINK1を作成することが望まれる。その方法の一つとして脱リン酸化処理が考えられる。この方法では脱リン酸化酵素の種類、反応条件やタイミングなどを検討する必要がある。他方で疑似リン酸化変異体にキナーゼ活性を阻害する変異を導入することで均質なPINK1の作成も試みる。キナーゼ活性を欠いた変異体は沈殿する傾向にあるが、リン酸化部位を模倣した変異体は可溶化する傾向にあるため、結晶化に十分な量のタンパク質を精製できる可能性がある。一方で、今年度の研究で全てのセリン・スレオニン残基をグルタミン酸に置換した変異体が安定かつ均一なサンプルとして精製できているが、負電荷の影響を受けて結晶化し難いこともあり得るので、これらの残基をアラニン残基やアスパラギン残基に置換した変異体も作成する。同時に、これまでに同定した4カ所の主要なリン酸化部位はグルタミン酸に置換することを計画している。これまで均質なPINK1タンパク質を得るために自己リン酸化を抑える変異を導入してきたので、活性は次第に損なわれていることも考えられる。現在までにUbやParkin Ublなどの基質タンパク質を用いたリン酸化アッセイの実験系は確立できているので、今後はリン酸化や結合能も検証しながら、より有用な変異体作成と結晶化スクリーニングを実行する予定である。
|