2016 Fiscal Year Annual Research Report
パーキンソン病原因遺伝子産物PINK1とParkinの構造基盤の確立
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15J10559
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
尾勝 圭 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 特別研究員(PD) (00739641)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | パーキンソン病 / ミトコンドリア / リン酸化 / マイトファジー / Parkin / PINK1 / ユビキチン / キナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
PINK1とParkinは遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子であるが、両者の機能と制御機構は完全には解明されていない。ミトコンドリア局在型セリン・スレオニンキナーゼであるPINK1とユビキチンリガーゼであるParkinは、協調して膜電位の低下した不良ミトコンドリアを分解することが報告されている。PINK1は正常なミトコンドリアに輸送された場合、ミトコンドリア内膜プロテアーゼとプロテアソームによって切断と分解を受ける。一方で、ミトコンドリア膜電位の低下はミトコンドリア内膜の輸送システムの低下を引き起こし、PINK1の外膜蓄積を促進する。その際に、二分子のPINK1がミトコンドリアタンパク質輸送体(TOM複合体)と結合し、PINK1は自己リン酸化を引き起こす。自己リン酸化によって活性化されたPINK1は単量体ユビキチンや鎖状ユビキチン及びParkin (Ublドメイン)を基質として認識する。リン酸化されたユビキチンはParkinの活性化因子として働くと同時にParkinをミトコンドリア上に局在させるレセプターとしても働く。一方で、ParkinのUblドメインのリン酸化はUblドメインの解離を引き起こし、活性型Parkinへの転換を容易にする。不良ミトコンドリア上のParkinは様々なミトコンドリアタンパク質をユビキチン化し、それが正のフィードバックとなり不良ミトコンドリアの処理が加速される。このような不良ミトコンドリア処理機構は細胞生物学的手法と生化学的手法によって明らかにされてきた。近年では国外の複数の研究グループが自己阻害型Parkinの立体構造とリン酸化ユビキチン結合型Parkinの立体構造も明らかにし、原子レベルの解析に移りつつある。本研究では未だに報告のないPINK1の立体構造解析に焦点を当てて制御機構や基質の選択性を明らかにするために研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ミトコンドリア型のタンパク質リン酸化酵素であるPINK1はユビキチンとParkinのユビキチン様ドメインの65番目のセリン残基を選択的にリン酸化する。また、細胞内におけるPINK1のタンパク質リン酸化酵素活性は自己リン酸化によって制御されている。初年度の研究でコクヌストモドキPINK1 (TcPINK1) が大腸菌で良好に発現し、酵素活性を持つことを確認したが、偶発的かつ不規則に複数ヶ所の自己リン酸化が引き起こっていた。それを解消するためにリン酸化部位の同定と脱リン酸化処理を行うことで均質なPINK1タンパク質を得ることができた。そのPINK1とATP非加水分解アナログを混ぜてから結晶化スクリーニングを行うと、3条件からTcPINK1を含む結晶を得ることができた。さらに結晶化条件の最適化を行い測定に耐えうる結晶の作成に成功し、Spring-8で回折像を得ることができた。しかし、分子置換法では構造を決定することができなかったのでセレノメチオニン置換体の作成をした。この結晶の回折像と分解能は悪かったが、クライオ条件を検討することで改善することができた。単波長異常散乱法による位相決定を行い、PINK1のX線結晶構造を決定することができた。今回のTcPINK1のX線結晶構造からATP (ATP非加水分解性アナログ)の結合様式が明らかとなった。また、PINK1独自のC末端領域の構造も明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に明らかにしたPINK1とATP非加水分解性アナログの構造が正しいことを検証するために変異体解析を行う。特にATPの結合に重要なアミノ酸に変異を導入することでATPとの結合が損なわれて基質分子のリン酸化が行われないことが予測されるので、この領域を検証の対象とする。現在、生化学的な解析に利用されている不活性型PINK1は濃縮過程で沈殿してしまい結晶化に利用できないので、上記の検証により得られた不活性型変異体の中で高濃度でも沈殿しない変異体は結晶化に利用する。同時に、本年度明らかになったPINK1の結晶構造をもとに、PINK1の基質認識に重要な領域の決定を目指す。既知のタンパク質リン酸化酵素の中には基質ペプチドと共結晶構造が解かれているものもあるので、それらを参考に基質認識に重要なアミノ酸を推定し、変異を導入することで基質認識に重要と予測される候補を探索する。また、部位特異的架橋法とモデリングを組み合わせてPINK1の基質選択性に迫ることも考えている。さらに、今回、結晶化に適したPINK1タンパク質の精製系を確立できたので、今後はPINK1の基質であるユビキチンやParkinのUblドメインとの共結晶化のスクリーニングも引き続き行う。
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