2016 Fiscal Year Annual Research Report
英語教師が母語を効果的に用いる授業内発話理論の構築と実践による検証
Project/Area Number |
15J10750
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石野 未架 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 会話分析 / 教師談話 / 英語非母語話者教師 / 熟達教師 / 教室秩序 / 応用会話分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の中等教育学校における熟達した非英語母語話者教師が授業を実践する際に用いる母語の効果的な発話理論を構築し、その理論を実践の中で検証することである。この目的を達成させるため、今年度は前年度に収集完了した教室談話データの分析と分析結果の学会等での発表を中心に研究活動を行ってきた。これまでに以下3点の分析結果を発表している。 1)教師は、英語母語話者教員とのティームティーチング授業において、教室空間を利用した非言語コミュニケーションを頻繁に用いることで母語の使用を最小限に抑えることに成功していること。 2)教師は生徒同士の使用言語を目標言語に維持するために特定の会話連鎖を組織し、限られた母語のフレーズを用いて生徒同士の使用言語を操作可能にしていること。 3)教師は授業で生徒がだれも回答しない場面や、特定の生徒から発言を引き出す必要がある場面において母語を利用した生徒のいくつかの呼び名を使用することで特定の生徒からの応答を引き出すことに成功していること。 以上の分析結果に関連した研究成果は平成28年度前半を中心に査読付きの国際学会にて口頭発表を行い、参加者から分析の妥当性や知見の現場での有用性について助言やコメントを得た。平成28度後半以降は得られたコメントや助言を基に分析結果を再度精査し、研究成果として論文にまとめて海外学術誌に投稿した。1)の結果については第二言語習得理論を中心に扱う海外学術誌に投稿し初回査読中、2)の結果については語用論を中心に扱う海外学術誌にて再査読中、3)の結果については言語と教育を中心に扱う海外学術誌にて初回査読中である。また、前年度からの計画通り、平成28年度9月より研究者自身の分析技術を精緻化するためにアメリカ合衆国カリフォルニア大学の研究施設CLICにて研究指導委託制度を利用し研究活動を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度現在までの研究進捗状況を研究計画内容に沿って評価するとおおむね順調に進展していると判断した。その理由を次に述べる。まず、平成28年度の研究計画内容を振り返ると以下の通りである。 ①平成27年度に収集したデータへの分析作業を確実に進め、研究成果にまとめること。 ②研究結果を国際学会で発表し、関連専門分野の研究者からフィードバックを得ること。 ③学会で得たフィードバックをもとに成果を論文にまとめて国際誌に投稿すること 上述3点の計画内容に沿って進捗状況を概観すると、①については、既に前年度の後半から着手しており順調に分析結果をまとめて発表することが出来たと言える。しかし、収集した膨大なデータ量のわりにはやや分析作業が追い付いていない点も認めらる。分析作業が少し遅れている原因としては今年度から本格的に取り入れた会話分析という新しい研究手法に研究者自身の分析技術が熟達していない点があげられる。従って、会話分析の創設研究機関である現在の研究指導委託先(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)における受け入れ研究者からも助言を受けながら分析の速度と精度を上げていく必要がある。これについては今後の研究の課題としたい。②については、平成28年度は合計4件の国際学会において研究発表を行っており、学会では期待以上のフィードバックが得られたため順調に進めることが出来たと判断できる。③については現在4本の論文を国際誌に投稿中であり、兼ね学会発表を行ったものについては順調に論文にまとめて成果発表の準備が出来ていると言える。以上の進捗状況から、平成28年度の研究はおおむね順調に計画通り進展したものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は本研究課題に取り組み始めてから3年目の年であり、研究助成の最終年度にあたるため、これまでの研究結果を一つの成果としてまとめ当該分野の研究コミュニティや関連の深い教育現場に還元していくことを研究推進の方策とする。具体的には以下2点の研究推進方策を掲げる。 ①研究成果を論文にまとめ、少なくとも今年度1本以上は国内誌および国際誌両方に投稿して広く研究成果を世間に発信していくこと。 ②既に論文として刊行されたものを中心に、逐次その研究成果を実際の中学・高等学校の現場に従事する人々に還元する取り組み(アウトリーチ活動)を積極的に行うこと。 ①については、次年度も引き続き研究指導委託先として滞在予定のカリフォルニア大学ロサンゼルス校において国際誌に多くの投稿実績を持つ研究者から論文に対するフィードバックを得ながら積極的に論文執筆・投稿作業に取り組んでいく。また、同時に日本の受け入れ指導教員とも相談しながら国内雑誌や国内書籍へ投稿する計画も進め、国内における研究成果の発表・発信も積極的に行っていく。②については、既に今年度前半にも行ってきたように、実際の公立中学校・高等学校の教師主導の研究会や地方自治体主催の授業研究会に参加し、研究成果の発表を行う。現場の教師たちからの研究成果に対する意見や疑問点などを研究へのフィードバックとして今後の研究成果公表の際の改善点とする。また、更に今後ますます積極的に行うことを予定している現場へのアウトリーチ活動の際にも改善していくべき点としても実際の現場で働く教師たちからのフィードバックを取り入れていく。従って、今年度は研究成果のまとめを発信するという活動を軸に、発信先と発信目的をアカデミックコミュニティに向けた新たな知見の積み重ねへの貢献と、教育実践現場へ向けた得られた知見の還元という2点に分けて、それぞれ研究成果の発信活動を行っていく。
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