2016 Fiscal Year Annual Research Report
現生動物の解剖学的解析に基づく化石爬虫類の視覚機能及び潜水深度の復元
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15J10919
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山下 桃 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 鞏膜輪 / 水晶体 / 相関関係 / 水生適応 / 古生態復元 / 海生爬虫類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,中生代の海生爬虫類モササウルス類の視覚復元をするために,近縁関係にある現生トカゲ類の眼球の軟組織と硬組織の関係性を調べ,眼の中の唯一の硬組織である鞏膜輪を持つ古脊椎動物の眼球構造の復元指標を構築することを目指した.現生トカゲ類28属29種の頭部・眼球について,鞏膜輪と水晶体の大きさを比較した.液浸標本のCTスキャン撮影にて硬組織を計測し.さらに液浸標本を1%ルゴール溶液で染色して再度CTスキャン撮影して水晶体を計測し,相関関係の有無を調べた.合わせて新鮮標本を用いて,固定と染色の前後で大きさを比較し収縮率を求めた. その結果,鞏膜輪の径はエタノール固定・ルゴール染色による変化はなかった.水晶体の径は固定により105%に膨張し,染色により84%に収縮した. 一方で眼球の径は,固定・染色による収縮はほぼなかった.組織毎に収縮率が異なることが明らかになり,これらの結果をもとに各組織の大きさを正確に求められるようになった.水晶体と鞏膜輪の大きさを比較した結果,鞏膜輪の内径と水晶体の直径に強い相関関係があることがわかった.さらに水晶体の径が鞏膜輪の内径に対し劣成長であることが明らかになった.これらの結果を用いることで,化石爬虫類において鞏膜輪から水晶体の大きさをより正確に推定することが可能となった. また,水生適応が鞏膜輪の形態に及ぼす影響を調べるために,カメ類の鞏膜輪を比較した.カメ類は完全水生適応した現生爬虫類である.陸生種・水生種の鞏膜輪の形態を比較することで,水生適応による鞏膜輪の形態の変化の有無を明らかにできる.4種の陸生種,3種の海生種,2種の淡水性種の鞏膜輪の形態を比較したところ,1種のリクガメ類を除いて全ての種において鞏膜輪の形態に変化はなかった.このことから,カメ類においては鞏膜輪の形態に水生適応の影響はなく,系統的制約が強く働いていると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,多くの種類の現生爬虫類の頭部・眼球について,液浸標本及びルゴール溶液で染色した標本をCTスキャン撮影し,硬組織(鞏膜輪)と軟組織(水晶体など)の間の大きさの相関関係を明らかにすることができた。本研究の手法の一つである,ルゴール溶液による染色は,軟組織間の最適なコントラストを得るために,溶液の濃度や標本の浸潤時間などのパラメーターを決定することが必要である.この手法は最近開発されたものであり,まだ研究例が少ない.その中で,多くの試行錯誤を繰り返すことにより最適なパラメーターを決定し,多くの種についてデータを得ることができた.このように本年度は古生物学への応用に必須の現生分類群の包括的なデータを得ることに成功した.今後はこれらのデータの統計的解析をさらに進めるとともに,化石種における頭骨や鞏膜輪の計測値をもとに眼の軟組織の復元,さらにはその視覚の推定を行っていく予定である.これは当初の計画通りであり,このことから本年度は概ね順調に研究が進展したと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,引き続きさらに多くの組織について相関関係の有無を明らかにしていく予定である.具体的には,眼球の径と鞏膜輪の外径,頭蓋骨の幅と視軸長,水晶体と入射瞳の径,眼球の径と視軸長の相関関係を調べる.手法は,これまでの研究で用いてきた手法を用いる.具体的には,固定標本のCTスキャン撮影により硬組織の撮影・計測し,ルゴール溶液を用いた後に再度CTスキャン撮影をして軟組織の撮影・計測を行う. さらに,これらの眼における硬組織と軟組織の相関関係を用いて,化石爬虫類の眼の軟組織を復元する.具体的には,モササウルス類や魚竜類などの化石海生爬虫類において,化石として保存されている頭蓋骨や鞏膜輪から,視軸長や水晶体の径,入射瞳の径を推定する.さらに推定された軟組織の大きさから化石海生爬虫類における視覚機能(眼のF値)を推定する.これにより,モササウルス類や魚竜類のそれぞれの分類群が,どのくらい暗いところでものを認識していたか,つまり,どのくらいの深度で行動していたかを明らかにする.これらの結果から,中生代の海洋生態系の頂点捕食者である海生爬虫類がどの水深帯に生息していたのかを明らかにしていき,アンモナイト類など被捕食者の生態と合わせて当時の海洋生態系を議論していく.
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Research Products
(2 results)