2015 Fiscal Year Annual Research Report
脱ユビキチン化酵素USP9Xによるインスリン受容体基質量制御とがん悪性化の新機構
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15J10937
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古田 遥佳 東京大学, 農学生命科学, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | USP9X / IRS-2 / 脱ユビキチン化 / Erk1/2 / 足場非依存性増殖能 / ユビキチン化サイト |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究により、IRS-2を高発現するヒト前立腺がん細胞株であるPC3において、USP9XはIRS-2を脱ユビキチン化することによりその分解を抑制、タンパク質レベルを高く維持している可能性が考えられた。 今年度は、USP9XによるIGFシグナルの制御機構を詳細な解析を行った。USP9Xを発現抑制したPC3細胞では、IRS-2のタンパク量が減少し、IGF下流シグナルであるErk1/2経路の活性化およびIGF依存性増殖が抑制された。更にIRS-2の発現回復を行ったところ、この効果は消失した。またUSP9XやIRS-2の発現抑制、Erk1/2経路の阻害を行った細胞ではPC3細胞の足場非依存性増殖(がん形質の一つ)が抑制されることを見出した。これらの結果から、USP9XはIRS-2の維持を介してIGFシグナル下流のErk1/2経路を活性化し、過増殖能や腫瘍形成能といったがん細胞特有の形質を維持していることが見出され、USP9Xによる新たなIGF調節メカニズムおよびがん形質発現のメカニズムが明らかとなった。詳細な分子機構が明らかになったことにより、現在開発を進めている結合阻害剤の、がん細胞に対する効果をErk1/2の活性化・足場非依存性増殖能を指標として評価することが可能となった。 また、USP9Xを発現抑制した細胞、あるいは抑制していない細胞からそれぞれIRS-2を精製し、LC-MS/MS解析によってIRS-2のユビキチン化サイトを比較した。その結果、USP9Xの発現抑制によって特定のユビキチン化部位の検出頻度が増加することが分かった。これらのサイトは、USP9Xの脱ユビキチン化標的部位である可能性が高い。現在これらの候補リジンについて、ユビキチン化されない変異体IRS-2を作成し、細胞に導入、USP9X発現抑制時の安定性やIGFシグナル、がん形質の及ぼす影響を評価している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IRSの高発現は過剰なIGF活性を発現させて、過増殖能や浸潤能、腫瘍形成能といったがん細胞特有の形質を獲得・維持していると考えられる。これまでに申請者らは、がん細胞においてUSP9XがIRS-2と結合することによりIRS-2を脱ユビキチン化し、分解を抑制、IRS-2のタンパク量を高レベルに維持していることを明らかとした。そこで本研究では、USP9Xの働きでIRS-2のタンパク量が過剰になることによりIGFシグナルが過増強し、がんの形質を獲得・維持していることを証明することを目的とした。更に、USP9XとIRS-2の結合を阻害する低分子化合物を同定し、新しい抗がん剤の開発へと発展させる。 本年度はまずUSP9XがIRS-2のタンパク量を高く維持することによって、Erk1/2経路が特異的に活性化されていることを見出した。更に、このUSP9Xによる Erk1/2経路の活性化により、PC3前立腺がん細胞の細胞増殖、特にがん形質のひとつである足場非依存性増殖能を維持していることが明らかとなった。これらの研究成果により、がん細胞においてUSP9XがIRS-2のタンパク量を高く維持することにより、IGFシグナル下流のErk1/2経路が活性化し、その結果がん形質が維持されていることが示された。 また現在、USP9XとIRS-2の結合阻害剤を取得を進めている。本年度の研究成果により、取得した結合阻害剤の効果を評価するにあたり、Erk1/2シグナルの活性および足場非依存性増殖を指標とすることが可能となった。 更に本年度はLC-MS/MS解析により、USP9XによるIRS-2の脱ユビキチン化サイトの候補が同定された。この成果により、今後ユビキチン化されないIRS-2変異体を作製し、正常細胞に導入、発がん実験を行うことが可能となった。このように研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度はUSP9XがIGFシグナル、およびがん形質の維持に果たす役割について、これまでの研究成果を投稿予定である。 今後は、USP9XとIRS-2の結合阻害剤の同定を行う。現在、新たにAlphaScreen系を導入し、USP9XとIRS-2の結合状態の定量解析を進めいている。まず、無処理のPC3細胞の細胞抽出液中でのUSP9XとIRS-2との結合状態をAlphaScreenを用いて検出、数値化する。次に、低分子化合物(理化学研究所機関研究所ケミカルバイオロジー部門が有する35,000種類の化合物)存在下・非存在下でインキュベートした後同様に解析し、USP9XとIRS-2との結合に変化を与える低分子化合物を同定する(共同研究1)。また、同定した低分子化合物でPC細胞をはじめとするがん細胞を処理し、Erk1/2シグナルの活性化を同じくウエスタンブロッティングおよびAlphascreenを用いて検出し、低分子化合物の生細胞における効果を評価する。更に、それぞれの細胞の足場非依存性増殖能を測定し、がん形質抑制効果についても評価する。これらの研究により、USP9XとIRS-2との結合のコントロールを標的とした、全く新しい抗がん剤の開発を目指す。 LC-MS/MS解析によって同定されたUSP9XによるIRS-2の脱ユビキチン化候補サイトについてユビキチン化されない変異体IRS-2を作製し、正常細胞に導入する。野生型IRS-2を導入した細胞と比較して、IRS-2の安定性、Erk1/2経路の活性化、IGF依存性細胞増殖、足場非依存性増殖についてそれぞれ評価する。これらの研究により、USP9XによるIRS-2の維持が、がん細胞におけるがん形質の維持のみならず、発がんの過程でも重要な役割を果たすことを証明する。 1)理化学研究所吉田化学遺伝学研究室 伊藤昭博博士
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