2016 Fiscal Year Annual Research Report
脱ユビキチン化酵素USP9Xによるインスリン受容体基質量制御とがん悪性化の新機構
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15J10937
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古田 遥佳 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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Keywords | USP9X / IRS-2 / ユビキチン化リジン残基 / Alpha-Screen |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究から、私は、IRS-2を高発現するヒト前立腺がん細胞株PC3において、USP9XはIRS-2を脱ユビキチン化することにより分解を抑制、IRS-2のタンパク質レベルを高く維持し、その結果IGFシグナル下流のErk1/2経路を活性化していることが明らかにしてきた。 今年度は、Alpha-Screen系を用いてUSP9XとIRS-2の結合様式の解析を行った。HEK293T細胞にFLAG-USP9Xとmyc-IRS-2-PAを共発現すると両者は結合していることがわかった。一方、大腸菌から精製したGST-USP9X、またはGST-IRS-2とHEK293T細胞から精製したFLAG-IRS-2またはFLAG-USP9Xをそれぞれ混合し、結合解析を行ったところ、両者の結合が観察されなかった。この結果から、IRS-2とUSP9Xの間には他の分子が仲介していることが示唆された。そこで、FLAG-USP9Xとmyc-IRS-2-PAを共発現したHEK293T細胞の細胞抽出液を精製し、仲介因子を除かない状況でAlpha-Screen系に供した結果、両者の結合を示すシグナルの検出に成功した。 次に、種々のリジン残基をアルギニンに置換してユビキチン化を阻害した変異体IRS-2-FLAGをPC3細胞に導入し、細胞をシクロヘキシミドで処理し、それぞれの変異体の分解速度を野生型IRS-2-FLAGと比較した。その結果、IRS-2のC末端領域に存在する8つのリジン残基の変異体ではIRS-2の分解が見られなかった。これらのリジン残基のユビキチン化は、IRS-2の分解に重要である可能性が高いことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IRSの高発現は過剰なIGF活性を発現させ、その結果過増殖能や浸潤能、腫瘍形成能といったがん形質の獲得、維持に重要な働きを果たしていると考えられている。これまでに私は、PC3細胞において脱ユビキチン化酵素であるUSP9XがIRS-2と相互作用し、IRS-2の分解を抑制することによりその高発現を維持していることを明らかとした。本研究では、USP9XがIRS-2の高発現を維持することによりIGFシグナルが過増強し、がんの形質を獲得、維持していることを証明することを目的とした。さらに、USP9XとIRS-2との結合を阻害する低分子化合物を同定し、新しい抗がん剤の開発につなげる。 本年度はまず、USP9XとIRS-2の結合様式について解析した。大腸菌から精製したUSP9XまたはIRS-2は互いに結合しない一方で、哺乳類の細胞にUSP9XとIRS-2を共発現させた場合では両者は結合することが分かった。これらの研究成果により、USP9XとIRS-2の相互作用には、他の分子の介在することが示唆された。更に、これらの解析から両者の結合状態の解析に最適な条件が明らかとなったことにより、Alpha-ScreenによってUSP9XとIRS-2との結合を検出することに成功した。この成果によりAlpha-Screenの系で、結合状態に影響を与える低分子化合物のスクリーニング解析が可能となった。 更に本年度は、IRS-2の種々のリジン残基をアルギニンに置換した変異体を用いて分解速度の解析を行い、一部の変異体でのみ分解が起こらないことを明らかとした。この成果により、IRS-2の分解に必要なリジン残基が8つに絞り込まれた。今後、USP9X発現抑制系などを用い、同定したリジン残基がUSP9Xの標的であることを証明する。このように研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度中に、USP9XがIGFシグナル、およびがん形質の維持に果たす役割について、これまでの研究成果を投稿予定である。 今年度は、USP9XとIRS-2との結合に他の分子が介在する可能性が示された。更に、Alpha-Screen系において、USP9XとIRS-2との結合を示すシグナルを検出することに成功した。そこで研究再開後は、USP9X-IRS-2複合体をLC-MS/MS解析することにより、仲介する分子の同定を試みる。同時に、今年度確立した精製方法で精製したUSP9XとIRS-2を低分子化合物(理化学研究所期間研究室ケミカルバイオロジー部門が有する35.000種類の化合物)存在下・非存在下でインキュベートした後、Alpha-Screen系でスクリーニング解析を行い、USP9XとIRS-2との結合に変化を与える低分子化合物を同定する(共同研究1)。その後、PC3細胞を同定した低分子化合物で処理し、Erk1/2シグナルをウエスタンブロッティングで評価し、化合物の生細胞における効果を評価する。これらの研究により、USP9XとIRS-2との結合をターゲットとした新たな抗がん剤の開発につなげる。 また、USP9Xの過剰発現・発現抑制細胞においてリジンをアルギニンに置換したIRS-2変異体を導入し、本年度同定したIRS-2の分解に必要なリジン残基がUSP9Xの標的であることを示す。また、正常細胞に、分解されないIRS-2変異体を導入し、野生型IRS-2を導入した場合と比較して、Erk1/2経路の活性化、IGF依存性増殖、足場非依存性増殖能についてそれぞれ評価する。これらの解析により、USP9XによるIRS-2の高発現の維持がPC3細胞といったがん細胞のがん形質維持のみならず、発がんの過程においても重要な役割を果たすことを証明する。 1) 理化学研究所吉田科学遺伝学研究室 伊藤昭博博士
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