2015 Fiscal Year Annual Research Report
スピン偏極イオン散乱分光法を用いた電流誘起スピン偏極の研究
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15J11055
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
一ノ倉 聖 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 原子核散乱 / 低速イオン散乱 / スピン偏極イオン / スピン軌道相互作用 / スピントロニクス / 超伝導スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、申請者がスピン依存イオン散乱分光法(SPISS)によって観測したBi薄膜表面における電流に依存したスピン非対称性の起源を明らかとし、さらに発展的にトポロジカル絶縁体薄膜表面における電流誘起スピン偏極を検出し、その性質を明らかとすることを目的としている。SPISSによって観測される量である「スピン非対称性」には「スピン偏極」の他に「表面原子核とスピン偏極イオンのスピン軌道相互作用の効果(SOI)」が含まれる。H26年までに観測されたスピン非対称性の起源を理解するため、H27年度は電流を流さずにSOIを詳細に評価した。その結果、Biにおけるスピン非対称性はHeイオンの入射方向には依存せず、散乱角、入射エネルギーに強く依存することがわかった。散乱角依存性は従来のSOIモデルと一致する一方、入射エネルギー依存性は単純なSOIモデルからの逸脱が見られた。これらの結果は、衝突の際のHeイオンと標的原子間の仮想的な電荷移動がスピン依存散乱に寄与することを示唆しており、SOIがイオンの入射エネルギーに対して非常に敏感に変化することが明らかとなった。この結果は表面科学会誌で発表した。 また、電流誘起スピン偏極が期待される他の物質の探索も行った。その過程で、TlとPbが吸着したSi表面がラシュバ効果と超伝導の両方を併せ持つことを発見した。この結果はPhysical Review Letters誌で発表した。この研究により電気伝導測定に習熟したため、東北大学高橋研と共同研究を行い、Caをインターカレートした2層グラフェンにおいて超伝導を世界で初めて検出した。この結果はACS nano誌に速報版として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度はBiにおける電流に依存したスピン非対称性の起源を明らかとするため、電流を印加した下での性質を調べる予定だった。しかし、電流がない場合のスピン非対称性を詳細に調べた結果、Bi原子核とスピン偏極イオンが、電荷移動を含んだ複雑な相互作用をすることが明らかとなった。この結果は、電流下でのスピン非対称性の変化を理解するための下地となるとともに、スピン偏極イオンの散乱が、従来の枠組みを超えて電荷移動の影響を取り入れる必要があることを示した成果である。 また、電流誘起スピン偏極が期待される材料の探索を行い、TlとPbが吸着した表面がラシュバ効果と超伝導を併せ持つことを明らかとした。従ってスピン偏極した超伝導電流が期待され、Bi以上に興味深い物質スピン‐電流変換系を発見したといえる。この研究によって電気伝導測定にも習熟した結果、東北大学高橋研究室との共同研究も担当することとなり、Caをインターカレートした2層グラフェンにおいて超伝導が発現することを世界で初めて示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果に基づき、Bi薄膜に関して今後はSOIによる項と電流によるスピン偏極項を切り分ける解析を行い、電流誘起スピン偏極の検出を決定付けることが目標となる。実験的には、試料ごと電流方向をヘリウムイオンのスピン方向に対して回転させてSPISSによって得られるスピン非対称性を測定し、さらにBi薄膜の膜厚依存性を測定することによって表面の効果を抽出する。 他の物質における電流誘起スピン偏極の研究については、当初予定していたトポロジカル絶縁体に加えてTl、Pb吸着Si表面を始めとした超伝導体にも対象を広げ、(超伝導)スピントロニクスの実現に向けて研究を行う。
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Research Products
(8 results)