2015 Fiscal Year Annual Research Report
重力波望遠鏡におけるマルチメッセンジャー観測システムの開発
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15J11064
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
正田 亜八香 国立天文台, 重力波プロジェクト推進室, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 重力波 / 防振装置 / マルチメッセンジャー観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年9月、アメリカの干渉計型重力波望遠鏡LIGOが世界で初めて重力波を直接とらえた。ただし、天体現象の詳細を解明するためには、重力波だけでなく電磁波やニュートリノなど、様々な手段で同じ天体現象を観測していくマルチメッセンジャー観測が重要となる。しかし、LIGOの2台のみでの観測ではパラメータの推定誤差が大きく、電磁波との同時観測が困難である。波源方向などを精度よく決定するためには、3台以上の重力波検出器で同時に重力波をとらえることが必要である。つまり、LIGOに加え、日本の重力波検出器KAGRAも早急に観測に参加することが求められる。 そこで本研究では、マルチメッセンジャー観測を実現するため日本における重力波望遠鏡KAGRAの開発を行っている。今年度は、KAGRAにおける観測の安定化、および観測時間の長時間化に重点をおき、干渉計に使用される鏡を吊るす防振装置の開発、改良を行った。 KAGRAの主干渉計では、鏡に応じて3種類の防振装置を使用する。本研究員はこれらのうちのひとつの防振系で、ダンピングができない共振モードが存在することを指摘した。この問題を回避するため、本年度のKAGRAでは振子の段数を減らすという改造を行い、実際にこの防振系をKAGRAにおいて組み立て・インストールした。 この鏡は干渉計においてレーザー光を3km先まで通すための光のアライメントにも使用され、干渉計を安定に動作させるために重要なものであるが、この防振系ではすべての共振モードが問題なくダンピングされ、干渉計を動作させることに成功した。これにより、2016年3月から始まったKAGRAの試験運転を実現することができた。 このほかにも、watchdog systemと呼ばれる防振系を地震などの衝撃から守り、かつ素早く自動的に復帰させるシステムの開発なども行い、KAGRAの観測時間の向上に貢献した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、国立天文台三鷹キャンパスにおいてプロトタイプ防振装置の組み立て・性能評価に参加し、防振装置の扱い方やその基礎を習得した。ここでは、比較的大型の防振装置の取り扱い、組み立て方法を確立したほか、防振装置の制御システムを構築した。特に地震など大きな外乱が加わったときに鏡を守り、制御を自動的に復旧させるGuardianと呼ばれるシステムを確立した。 それだけではなく、実際のKAGRAで使用される防振装置の評価も自主的に行い、その共振モードを抑える機構に問題があることを初めて指摘した。共振モードを抑えるダンピングができないと、この共振周波数で鏡が大きく揺れてしまい、干渉計の制御に支障をきたしたり、この揺れが線形性を崩すことによって高周波数帯でも感度を汚してしまう可能性がある。そこで、この問題を回避する形で防振装置に改造が加えられた。この防振装置は、本研究員主導のもと、実際に神岡で組み立て、インストール、性能評価まで行われた。そのほかにも、KAGRAの実地においてGuardianシステムを防振系に導入することができた。これは、主干渉計システムともコミュニケーションを取ることで、自動的に干渉計を復旧させるシステムへとつながっている。 本防振装置は現在のinitial-KAGRA(iKAGRA)において最も大型の防振装置であり、実際のクリーン環境のもとで大型の防振装置の組み立てや、真空槽内へのインストールなどの手法を確立したものである。 このように、本防振装置がインストールされたことにより、KAGRAにおいてマイケルソン干渉計を動作させることに成功し、2016年3月にiKAGRAの試験運転を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に行った防振装置の改造は、2016年3月の試験運転に向けた暫定的な改造であり、KAGRAの最終目標感度に対しては性能が足りないことがわかっている。そこで、今後は防振性能もよく、かつすべての共振モードがダンピングできるような防振装置の改良を行っている。これを開発・インストールすることで、KAGRAにおいて光共振器を導入することができ、地面振動雑音の低減だけでなく、3kmの腕を用いた基礎的な干渉計技術の試験を行うことができるようになる。 更に、KAGRAで導入されている地震計やマイクなどの環境センサーと各システムの動作状況との関連や、干渉計全体としての感度の関連を調べる。環境センサーのデータとの関連性を見ることで、干渉計の感度を何が制限しているのかを明らかにするだけでなく、実際に雑音の低減を行うことができる。環境が影響を及ぼしている部分を保護などすることで雑音の導入経路を低減させるほか、雑音とのコヒーレンスをとることでデータ上で雑音を減らす技術の導入も検討している。また、新たに環境センサーを用いたfeed forward技術などを導入することで、感度の向上だけでなく干渉計の安定化も目指す。feed forward技術は、環境の影響を打ち消すように制御を加えるため、実際に環境の影響が出てから影響の分だけ打ち返す通常のfeedback制御と異なり、干渉計の鏡などを環境による影響から守ることができ、干渉計を安定させることができる。これによって観測時間を延長することができ、より多くの天体を複数の望遠鏡で同時にとらえることが必要なマルチメッセンジャー観測に有効となる。 また、LIGOやVirgoと協力してマルチメッセンジャー観測を行うための基礎的なネットワークシステムの開発も行う予定である。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Characterization of the room temperature payload prototype for the cryogenic interferometric gravitational wave detector KAGRA2016
Author(s)
F. E. P. Arellano, T.i Sekiguchi, Y. Fujii, R. Takahashi, M. Barton, N. Hirata, A. Shoda, J. Heijningen, R. Flaminio, R. DeSalvo, K. Okutumi, T. Akutsu, Y. Aso, H. Ishizaki, N. Ohishi, K. Yamamoto, T. Uchiyama, O. Miyakawa, M. Kamiizumi, et. al (以下6名)
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Journal Title
Review of Scientific Instruments
Volume: 87
Pages: 034501
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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