2015 Fiscal Year Annual Research Report
マウスのフェロモンESPが性行動を制御する際に機能する脳神経回路の解析
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15J11066
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小坂田 拓哉 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 動物 / 神経科学 / 行動学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、[1-1] V2Rp5-Creマウスと改変型単純へルぺスウイルスを用いた順向性トレーシング、[1-2] Double in situ hybridizationによるESP22受容体の同定と受容体欠損マウスの作製、[1-3] ESP22が雌マウスに対して引き起こす行動の同定、について解析を行った。いずれの項目においても今後につながる大きな進展が見られた。 生物は様々な物質を用いて社会行動を営む。本研究では、マウスの涙液中に含まれるペプチド性のフェロモンであるESPファミリーに着目し、それらが引き起こす社会行動や、その誘起に関わる受容体、また、神経回路の一端を明らかにすることを目指した。ESPファミリーに含まれるペプチドのなかで、近年、ESP1とESP22について解析が進められている。雄の涙液中に含まれるESP1は、フェロモン受容器として機能する鋤鼻器官の細胞のうちV2Rp5を発現する細胞で受容され、雌の性行動を促進することが、また、幼少期マウスで時期特異的に涙液中に分泌がみられるESP22は、雄の性行動を抑制する働きをもつことが知られている。 これまでに、 [1-1]単純ヘルペスウイルスを用いたトレーシングで単一のフェロモン受容体を起点とした神経トレーシングに初めて成功し、情報の伝達経路を経時的に可視化することに成功した。 [1-2]ESP22の受容体の候補を2つの鋤鼻神経細胞に絞り込むことに成功し、CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いたノックアウトマウスの作出を行った。[1-3]ESP22が母親マウスと性行動未経験マウスでは違った価値を持つ可能性を示唆する結果を行動実験によって得た。これらの研究成果は、フェロモンが受容され行動を引き起こす際の一端を明らかにしただけでなく、今後のフェロモンや、様々な化学感覚の研究につながるものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[1-1]改変型単純ヘルペスウイルスツールを用いた順向性トレーシング:鋤鼻嗅覚系の二次中枢である副嗅球にウイルスをインジェクションし、in situ hybridizationによってシグナルの増幅を行うことでESP1の受容体V2Rp5を起点としたシナプス接続の可視化を経時的に行うことに成功した。解析の結果、ウイルスの導入から2-3日後には、三次中枢である扁桃体内側核、扁桃体後内側核においてシグナルが観察された。また、その際のシグナルの分布に明瞭な性的二型性は観察されなかった。4日後には、四次中枢である視索前野、視床下部腹内側核でシグナルが観察された。ここでも性的二型性は観察されなかった。[1-2]ESP22の受容体の同定と受容体欠損マウスの作製:in situ hybridizationによってESP22の受容体を2種類の鋤鼻神経細胞に絞り込むことに成功した。また、CRISPR/Cas9ゲノム編集システムによって受容体欠損マウスを作出することに成功した。 [1-3]ESP22の雌マウスに対する働きの同定:ろ紙にESP22やコントロールの溶媒を浸み込ませたものを用意し、それらに対する探索行動時間を計測する行動実験を行った。その結果、性行動未経験マウスではEPS22に対して探索行動時間が増加することはなかった。一方、母親マウスにおいて同様の実験を行ったところ、ESP22に対する探索行動時間が有意に増加した。この結果は、ESP22が性行動未経験マウスと母親マウスで異なった価値を持つ可能性を示唆している。そして、母親マウスにとって幼少マウスの涙液から分泌されるESP22はポジティブな価値を持っている可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も昨年度に引き続き、マウスの涙液中に含まれるフェロモンESP1ならびにESP22の受容から行動発現に至るまでの神経メカニズムの一端を明らかにすることを目指す。 ESP1に関しては、昨年度成功した、改変型単純ヘルペスウイルスを用いた、順向性神経トレーシングによる経時的なフェロモン情報伝達経路の可視化の結果を、定量化しまとめ、論文化を行う。このトレーシングツールは、他のCreリコンビナーゼマウスとともに用いることで、様々なフェロモンや化学感覚の情報伝達基盤の解析を行う際にも用いることができるツールである。 ESP22については、昨年度作製した受容体欠損マウスの解析を、第一に行う。組織化学的手法と行動実験の両方の解析を行うことで、ESP22の受容体を同定する。また、ESP22によって活性化される高次脳領域をin situ hybridizationによって明らかにする。加えて、ESP22の雌マウスに対する働きを行動実験によって明らかにする。その両者が明らかになった後は、活性化脳領域にGqDREADDもしくはChR2をコードしたアデノ随伴ウイルスをインジェクションし、特定の脳領域特異的に神経細胞を活性化する。そして、その状態で行動実験を行うことで、特定の脳領域の神経細胞の活性化がESP22による行動発現に対して必要であることを示す。 最後にそれらの結果を定量化し、論文化を行う。それによって他のフェロモンや化学物質が動物個体の行動や生理的変化を引き起こす際のメカニズム解析の進展につながるような結果、また、研究手法を提示することを目指す。
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Research Products
(2 results)