2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J11171
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
白石 卓也 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ニュートリノ / OPERA実験 / 原子核乾板 |
Outline of Annual Research Achievements |
OPERA実験は、史上最大の原子核乾板検出器を用いることで加速器でのニュートリノ振動(νμ→ντ)の直接検出を目的とした実験である。2015年には5例目のντ反応を報告し、これら5例の反応が極めてバックグランドの少ないことから5.1σの有意性をもってνμ→ντ振動の証拠をつかんだ。振動パラメータであるΔm2(32)については直接検出におけるデータを初めて示し、これまでの他実験の間接観測におけるパラメータと無矛盾であることが分かった。これらの結果は、スーパーカミオカンデの大気ニュートリノ観測から始まったニュートリノ振動の確実的な証拠として貢献した。 また、OPERA検出器に6年間蓄積された宇宙線イベントの解析については、膨大なイベントが記録されている電子検出器の情報から大気ニュートリノライクなイベントのトリガー条件を決定し、その詳細解析のための原子核乾板検出器の取り出しを行ってきた。同時に、これまでにない大規模な原子核乾板の解析が必要になるが、そのための準備として、2014年から投入された新しい原子核乾板読取装置HTSのパラメータチューニング等を行ってきた。HTSはその特徴的な巨大な対物レンズによって従来のSUTSと比べ圧倒的な読取速度を持つ他、宇宙線解析にとって重要となる角度アクセプタンスの向上においても優位である。ただし、その反面、レンズの視野が大きくなったことで被写界深度も大きくなり、SUTS用に調整されたOPERA乾板の厚みの場合は飛跡読取効率が悪化することが分かった。このことから、乾板を水とグリセリンによって1.3倍の厚さまで膨潤させることで対処を行った。その結果、SUTSと同等の飛跡検出効率と確かな角度アクセプタンスの向上が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大規模な原子核乾板解析が必要になるOPERA検出器内の宇宙線イベント解析には、圧倒的な読み取り速度を持つ新しい読取装置HTSの運用が必須である。しかし、HTSは対物レンズの被写界深度が大きくならざるを得なかったことから、従来機のSUTSに比べて飛跡読取効率が大きく悪化してしまった。この問題の対処として、現像後の原子核乾板を水とグリセリンで膨潤させることによってSUTSと同程度の読み取り条件を実現し、実際に飛跡読取効率も同程度まで向上させることができた。これによりこれまでと同程度の質で、大規模かつ角度アクセプタンスを向上させた解析が可能となった。現在ではまだ小規模な膨潤処理能力しかなく、効率よくこの作業を行っていく必要がある。また、今後も膨大なノイズとの闘いになるため、読み取られたデータからいかに飛跡だけを選びだすかが課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
OPERA実験はνμ→ντ振動を5.1σの有意性で検出したことで本来の目的を達成したが、今後は統計を上げることでΔm2(32)の精度向上や宇宙線の解析などを追加で行っていく予定である。どちらの解析においても、これまで未探査だった膨大な領域の解析のためにHTSの導入が必須となっている。HTSを実用していくには、すでに述べたように2つの大きな課題がある。一つはSUTSの解析用にオプティマイズされた原子核乾板をHTSで飛跡読取効率を落とさず解析できるようにするための膨潤の工程であり、現状では原子核乾板1枚当たり30分程度かかってしまっている。この工程の短縮および乾板ごとの厚みの一様性の確認が必要である。もう一つは原子核乾板解析で共通の課題であるノイズの除去である。読取装置で認識される飛跡候補のほとんどはコンプトン電子などのノイズであり、解析範囲を広げることはそのままノイズ量の増加につながる。私は研究室所属当初からこの課題に取り組んでおり、これまでに機械学習による多変量解析の可能性を見出し、原子核乾板解析において初めて試験的に導入することで大幅にノイズ量を削減してきた。この方法は、情報量が多いことが特徴的な原子核乾板において非常に有効であり、今後はオーバースペックになりつつある読み取り速度を少し犠牲にし、情報量を増やしてノイズ削減を行っていく予定である。
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Research Products
(9 results)