2015 Fiscal Year Annual Research Report
流動的社会関係における協力のメカニズム:経験的研究と数理的研究による比較制度分析
Project/Area Number |
15J11199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大林 真也 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ゲーム理論 / 助け合い / ネットワーク分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、従来の理論研究では困難だとされていた流動的な社会関係や集団において人々が協力し合うためのメカニズムを解明することである。従来の研究では、人間関係が流動的な場合、情報の流れが制限されたり、非協力的な行動に対する罰則行動がうまく機能しなかったりするという問題が指摘されていた。しかし、現代社会においてはそのような状況でも人々の助け合いが行われている例が確かに存在する。そのため、従来の理論を超えて人々が助け合うためのメカニズムを解明することは現代的な意義が高いと思われる。 研究の基本的な方向性としては、まずは流動的な社会関係や集団において人々が協力し合っている事例を詳細に調査し、その知見をもとに、ゲーム理論による分析を行って理論化を行う。次に、理論をもとに量的なデータを収集し、統計的に分析し、理論の検証を行う。さらに、その結果をもとに必要があれば理論を修正し、流動的な社会関係や集団において人々が協力し合うための経験的に妥当な包括的理論を構築することを、最終的な目的としている。 そのために本研究では具体的に、コミュニティ・ユニオンで行われている助け合いを対象として、その助け合いが維持されるメカニズムを理論的かつ実証的に分析する。コミュニティ・ユニオンとは、個人加盟型労働組合の総称であり、組合員の加入・離脱のサイクルが早く流動性の高い組織である。 平成27年度が始まる時点で、理論研究までは完了しているため、本年度は理論をもとにした経験的データの収集および分析に集中的に取り組んだ。具体的には、コミュニティ・ユニオンのひとつである東京管理職ユニオンの助け合いのデータを体系的に収集する方法を確立し、1年分のデータを収集した。さらに、データの記述や統計的分析の一部を行って、組合員同士の助け合いの実態を徐々に明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、経験的分析のパートに力点を置き、助け合いに関する経験的データの収集と分析の一部を行った。具体的には、コミュニティ・ユニオンのひとつである、東京管理職ユニオンに焦点を当て、そこで行われている争議での助け合いのほぼ完全なデータを1年分収集した。まずは東京管理職ユニオンで行われている争議のデータをすべて記録するための体系的なデータ収集の方法を確立して軌道に乗せたことが重要な点である。データの収集は2014年10月から継続的に行っており、現在も継続中である。データには、争議の日付・案件・当事者・参加者が含まれており、誰がいつ誰を助けたのかがわかるようになっている。 また、東京管理職ユニオンでは、組合員の加入や脱退が非常に多いのが特徴である。そのため、東京管理職ユニオンのスタッフの協力を得て、組合員に関する情報を収集した。具体的には、どの組合員がいつ組合に加入し、いつ脱退したのか、という情報を収集した。 上記のように収集したデータを記述的・統計的に分析することで、東京管理職ユニオンでの助け合いの実態が徐々に明らかになってきた。まずひとつの争議に平均的にどれだけの人が参加しているのか、また個人が争議にどれくらいの回数参加しているのかなど、基本的な情報を整理した。 さらに、収集したデータをもとに変数を作成し、統計的な分析を行った。通常の回帰分析では、個人間の相互支援活動を分析することが推定上困難なので、マルチレベルロジットモデルを用いて分析を行った。その結果、「以前自分を助けてくれた人を助ける」、「以前ほかの人の争議で会ったことがある人を助ける」という傾向があることがわかった。 以上のように、経験的分析のパートに関しては当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針としては2つある。1つ目は、27年度に軌道に乗せた東京管理職ユニオンの助け合いのデータを継続して収集することである。もうひとつは、経験的データを分析する手法を確立することである。 まず、1つ目に関してであるが、これは継続的にデータ収集をすることでサンプル数を増やすことや個人が組合に加入してからの完全な履歴を収集することを目的としている。東京管理職ユニオンの組合員の平均的な在籍期間は約1年から2年である。そのため、個人が加入してから脱退するまでに、何回争議行動を行い、何人の人を助け、何人の人に助けられたのか、という完全な行動履歴を取得するには1年から2年の歳月を要する。データの収集を始めたのが平成26年10月からなので、完全な個人の行動履歴を収集するには、28年度も継続して収集する必要がある。このデータを収集することで、組合員がいつ、どのような人を助けたのかが明らかになり、流動的な社会関係における助け合いの実態を明らかにすることができるようになる。 2つ目は、収集したデータを正確に分析することを目的としている。収集したデータは、従来の研究とは異なった特殊な構造をしている。そのために計量経済学やネットワーク分析に関する最新の分析手法を習得する必要がある。例えば、multilevel logistic regression, lagged logistic regression, quadratic assignment procedure, temporal exponential random graph model, stochastic actor oriented modelなどの手法が挙げられる。特に、変数間の内生性を十分に考慮した分析を行うための方法を用いる必要がある。可能であればデータや目的に即した分析手法を開発し、研究をさらに前進させることを予定している。
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Research Products
(8 results)