2016 Fiscal Year Annual Research Report
キラルリチウムホスホリルフェノキシド触媒を用いる光学活性アルコールの合成法の開発
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15J11223
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山川 勝也 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | エナンチオ選択的 / キラルビナフトール(BINOL) / リチウム / ケトン / 不飽和N-アシルピロール / シリカート / 酸塩基複合型触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
ケトンのシアノシリル化反応で得られる光学活性第3級シアノヒドリンは様々な生物活性物質の合成鍵中間体であるが、ケトンの反応性の低さとエナンチオ面の認識の難しさからアルデヒドに比べて開発例が非常に限られている。特に、基質適応範囲の狭さと反応時間の長さ(24~48時間)、触媒量の多さなどの問題があり、更なる改善の余地があった。当研究室では、これまでに両エナンチオマーが入手容易なキラルビナフトール由来のキラルLewis酸・Lewis塩基複合型触媒の開発を行なってきた。第一世代触媒のキラルリチウムビナフトラートアクア錯体はアルデヒドのエナンチオ選択的シアノシリル化反応に有効で、第二世代のキラルリン酸リチウム塩触媒は一部のケトンのエナンチオ選択的シアノシリル化反応に有効だった。しかし、ケトンに対しては反応性、基質一般性が十分でなかったため、それらの改善を目指して研究を行い、昨年キラルリチウムホスホリルフェノキシド触媒を用いたケトンのエナンチオ選択的シアノシリル化反応を開発した。本触媒システムは、これまでに用いることができなかった配位性の高いエステル基やシアノ基を有する基質や様々な非メチルアリールケトンに有効で、高収率、高エナンチオ選択的に目的生成物を得た。さらに、得られた生成物からの誘導を検討し、スペルミジンアルカロイドである(+)-13-hydroxyisocyclocelabenzineの合成鍵中間体を光学的に純粋に得ることに成功した。本触媒は、ホスホリル基の6員環キレーション構造によりリチウムフェノキシドのリチウムイオンの配向性を制御することで、高いエナンチオ選択性を発現した。また、NMRやESI-MSなどの分析手法を用いて、水の添加による高活性モノマーの生成とトリメチルシリルシアニドとシアン化リチウムから系中で調製される高活性5配位シリカートが反応活性種であることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今回、私が開発したキラルリチウム(I)ホスホリルフェノキシド触媒を用いたα,β-不飽和カルボニル化合物のエナンチオ選択的共役シアノ化反応の開発を行った。検討の結果、ケトンのエナンチオ選択的シアノシリル化反応と同様の条件で反応を行ったところ、予想通り高いエナンチオ選択性を発現した。前報のケトンのエナンチオ選択的シアノシリル化反応と同様に、水の添加により高活性モノマー触媒を生成すると同時に、高活性5配位シリカートが触媒活性種であることが示唆された。本触媒は、β-位に電子供与性および電子求引性置換基、へテロ環芳香族を持つ基質に有効で高収率、高エナンチオ選択的に生成物を得た。また、様々な脂肪族置換基を有する基質にも有効で、最高99%収率、97% eeで目的生成物を得た上、最高1.2 グラムスケールでの合成も可能だった。さらに、得られた生成物から有用化合物への誘導の検討を行った。まず、抗痙縮作用があり中枢性筋弛緩薬として用いられている(R)-Baclofen に着目した。従来の触媒での適用の困難な電子求引性置換基であるp-クロロフェニル基を有する基質に対して、本触媒反応を行い、目的生成物を95%収率、83% eeで得た。得られた生成物は、再結晶により光学純度を向上させた。その後、シアノ基の選択的還元、環化反応を行い、最後に酸加水分解することでGABA受容体作動薬として用いられている(R)-Baclofenの全合成に成功した。次に、神経障害性疼痛治療薬として用いられる(S)-Pregabalin に着目した。β-位にイソブチル基を有する基質に対してS 体の触媒を用いて反応を行い、目的生成物を82%収率、90% eeで得た。ここで得られた生成物も、再結晶により光学純度を向上させた。得られた生成物は2ステップで(S)-Pregabalin へと誘導することが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらなる有用化合物への誘導の検討と高次選択性を制御する他の反応への応用の検討を行っていく。まず、さらなる有用化合物への誘導の検討としてStreptomyces griseusがStreptmycinを生合成する際の自己調節因子として働くA-factorに着目した。これまでに、γ-位にベンジロキシ基を有する基質に対してキラルリチウム(I)ホスホリルフェノキシド触媒を用いたエナンチオ選択的共役シアノ反応を行い、目的生成物を73%収率、97%eeで得ている。その後、得られた生成物に対して三臭化ホウ素によるベンジル基の脱保護および酸性条件下で環化を行い、最後にキラルラクトンのシアノ基を塩酸で加水分解することで、A-factorの合成鍵中間体である(S)-paraconic acidを得ることに成功している。しかし、誘導での収率の改善が必要であるため、今後最終ステップの酸加水分解の条件検討や別のルートでの誘導の検討を行っていく。次に、高次選択性を制御する他の反応への応用の検討としてα,β,γ,δ-不飽和カルボニル化合物の位置及びエナンチオ選択的共役シアノ化反応の検討を行っていく。これまでに位置及びエナンチオ選択的な共役シアノ化反応の開発例は無く、非常にチャレンジングな研究テーマである。これまで用いて来たキラルリチウム(I)ホスホリルフェノキシド触媒では、1,4付加生成物しか得ることができず、目的の1,6付加生成物が得られなかった。さらなる検討の結果、現在までに新規キラルマグネシウム(II)ホスホリルビナフトキシド触媒を用いることで、1,6付加生成物を57% eeで得ており、今後さらなる位置及びエナンチオ選択性の向上を目指し触媒や反応条件の検討を行うと同時に、得られた生成物からの有用化合物への変換についても検討していく予定である。
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Research Products
(3 results)