2015 Fiscal Year Annual Research Report
エネルギー政策プラットフォームに資する水素ライフサイクルのフィジカルリスク評価
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15J11362
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
中山 穣 横浜国立大学, 環境情報研究院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 水素ステーション / 安全性検討 / リスク分析 / HAZID study |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、工学システムの新しい安全性検討フレームワークを提案することを目的に研究を行ってきた。平成27年度は従来の安全性検討の原則に従い、水素ライフサイクルの中で、燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーションに着目し、安全性検討を行った。以下に主要な研究成果および実施状況を記載する。 水素ステーションに関して、単独型水素ステーションに対する安全性検討は既往の研究が豊富である。それらの知見を活かしながら、水素ステーションとガソリンスタンドが併設する水素ステーション併設給油取扱所に関して、併設特有のリスクを抽出することも目的に、Hazard identification study (HAZID study)を実施してきた。HAZID studyは、工学システムの概念設計段階において、自然事象や外的事象など様々な原因により事故が発生するシナリオを特定する手法であり、本質安全設計に重要な安全情報を取得できるため、普及段階である水素ステーションの安全性検討には非常に有効な手法であると考える。液化水素型および有機ハイドライド型水素ステーション併設給油取扱所を対象にHAZID studyを行った結果、液化水素型では850個の事故シナリオを抽出し、有機ハイドライド型では1248個の事故シナリオを抽出した。 液化水素型水素ステーション併設給油取扱所のHAZID studyより、詳細な検討が必要である事故シナリオを特定し、事故シナリオの詳細解析を実施した。事故シナリオに関して、プール火災を火災・爆発解析ソフトウェアTRACEを用いて解析し、液化水素貯槽の構造解析を構造解析ソフトフェアANSYSを用いて計算した。それらの結果、プール火災と液化水素貯槽の距離に依存して液化水素貯槽の熱応力が低下することが明らかになり、当該水素ステーションのレイアウトに関して安全情報を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は,平成27年度の目標を水素ステーションのフィジカルリスクアセスメントとして、2種類の水素ステーション併設給油取扱所を対象に定性リスク分析を行った。具体的には、Hazard Identification studyにより事故シナリオを抽出し、各種シミュレーションソフトフェアを用いて事故シナリオの詳細検討を実施した。これまで学術的成果として,国際学術誌International Journal of Hydrogen Energy (IF=3.659)に2報採択され,International Conference on Hydrogen Safety等の9つの国際学会および国内学会にて積極的に学会発表した。また2つの研究プロジェクト(戦略的イノベーション創造プログラム“エネルギーキャリアの安全性評価研究”および消防防災科学技術研究推進制度“水素スタンドの併設給油取扱所の安全性評価技術に関する研究”)の研究協力者としても参画し,水素社会の実現に必要不可欠な水素ステーションの建設に向け,安全性検討の成果を社会還元しており,社会的インパクトが大きな成果を残した。 平成28年度研究に関して,平成27年度の研究成果を活用し、定量的なリスク分析を実施し、既存の評価基準等と比較し、水素ステーションの安全性について言及する予定である。また、既に2報の国際論文誌の投稿、3つの国際および国内学会における発表を予定しており、おおむね順調に研究が進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究方針は2つある。 1つ目は従来の工学的な安全性検討である。これまで液化水素型および有機ハイドライド型水素ステーション併設給油取扱所のリスクアセスメントを定性的に行ってきた。今後は定量的な研究により、水素ステーションが有するリスクを明らかにする。定性的なリスク分析手法であるHazard Identification studyにより、事故をシナリオを特定する。その後、定量解析に向け、各種シミュレーションソフトウェアを駆使し、事故シナリオのモデル化を実施する。現在、水素ステーションの安全弁設計に資する検討として、水素ステーション内におけるプール火災に伴う緊急水素放出について、法規制および安全対策等の周辺情報整理とシミュレーションモデルの作成を実施している。また、有機ハイドライド型水素ステーションに関して、トルエン回収プロセスは特有のプロセスであるためリスク分析の研究実績はない。したがって、トルエン回収プロセスに関して定量リスク解析を実施する。まずはEvent tree analysisを行い、事故シナリオおよび事故の発生頻度を定量的に算出する。その後、事故シナリオに基づくシミュレーションにより、火災や爆発などの影響度を算出し、Individual riskまたはSocietal riskを算出する。 2つ目は、工学システムの安全性検討に対して新しいフレームワークを提示する。従来の安全性検討は、火災や爆発による人の死亡を分析対象としてきたが、実際に事故が発生した場合には、避難や停電などの周辺住民の生活レベルの低下なども考えられる。自然災害や産業災害に関する事例研究を実施することで、様々な被害形態を整理する。整理結果をもとに、新しいリスク分析手法を提案するとともに、水素ステーションへ適用することで目的の達成を図る。
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Research Products
(8 results)