2015 Fiscal Year Annual Research Report
テラヘルツメタマテリアルを用いた磁性体スピン共鳴における非線形現象の探索
Project/Area Number |
15J11416
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 貴之 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | テラヘルツ / スピン / 磁気共鳴 / コヒーレント制御 / スピン再配列相転移 / メタマテリアル / 近接場 / 光誘起相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,テラヘルツ(THz)帯域に共鳴応答を持つ金属微細構造(メタマテリアル)中の近接磁場を用いて磁性体中の電子スピンを高強度に励起し,従来行われていた線形領域の実験を大きく超えた劇的なスピンダイナミクスを実現することである。 初年度である本年度は,まず現実的な強度のTHz磁場を用いて磁気秩序の巨視的な制御を行うことを目指した。そのために,磁気的摂動に非常に敏感な現象である,弱強磁性体エルビウムオルソフェライトErFeO3におけるスピン再配列相転移に着目した。ErFeO3は90K付近を境として強磁性磁化がa軸からc軸の間で温度に依存して連続的に90°回転する,回転型のスピン再配列相転移を示す。試料を低温相に設定しフェムト秒レーザーを照射すると加熱によりピコ秒スケールで再配列転移が生じるが,この初期過程に対して分割リング共振器(SRR)メタマテリアル中の増強THz近接磁場を用いて摂動を与えたところ,+c方向と-c方向に対する磁化回転の指向性を劇的に変調し,試料中の強磁性磁気ドメインをほぼ一方向に揃えることに成功した。生成磁化量は入射THz波振幅に対して飽和を示し,SRR増強THz磁場により励起されたスピン歳差運動の大きさが,熱揺らぎを大きく超えていることを示した。生じた磁化の方向はTHz波と加熱パルス光の入射タイミングによってコヒーレントに制御でき,この過程がスピン歳差運動及び入射THz磁場による相転移過程の対称性の破れによって生じていることが明らかになった。ここで示されたTHz磁場による相転移過程の制御という方法は,従来可視光励起によって行われていた実験では加熱によって埋もれていた可能性のある再配列相転移初期過程へのわずかな磁気的摂動が及ぼす効果を,THz磁場の利用によってより詳細に調べられる可能性を提供するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定ではメタマテリアル構造の最適化及び高強度THz光源の出力向上によってスピン共鳴を増大し,徐々に励起強度を強めて非線形領域に到達する予定であったが,スピン再配列相転移という磁気敏感な過程に着目したことにより,全くことなる方式で当初予想されていたよりも劇的なスピン秩序制御が可能であることがわかったため,これに関してより重点を置いて研究を行った。他方,MITグループとの共同研究により,純粋THz磁場の利用に関しても磁気的2次高調波発生等を示唆する非線形応答の信号を観測し始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,純粋THz磁場による非線形スピン秩序の制御のためには,THz光源強度の大幅な改善が必須である。これに関しては,磁気共鳴周波数に合わせた高いスペクトル強度を持つレーザーベース狭帯域THz波光源の構築およびTHz自由電子レーザーの利用などを準備している。同時に,非線形応答の高感度検出のために,2次元THz分光法を適用することで線形応答成分を除外した磁気的非線形応答のロックイン抽出を行う予定である。
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Research Products
(5 results)