2015 Fiscal Year Annual Research Report
水環境における腸球菌の薬剤耐性獲得・伝播メカニズムの解明
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15J11464
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
西山 正晃 宮崎大学, 農学工学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | VRE / 腸球菌 / 薬剤耐性 / バンコマイシン耐性遺伝子 / 河川 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、水環境に広範囲で分布する腸球菌をターゲットとし、中規模都市「宮崎」を経由する都市河川を対象として、薬剤耐性腸球菌の拡散と分布を調査する。中でも、院内感染原因菌であるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の水環境中での存在と拡散実態を明らかにすることである。また、水環境中を模擬したin vitro伝達実験を実施し、薬剤耐性遺伝子の伝播する可能性とそのメカニズムを解明することである。 薬剤耐性腸球菌の拡散と分布調査は、宮崎市内を流下する都市河川である八重川を対象として実施した。腸球菌選択培地から単離した700株について菌種同定試験を実施し、333株が腸球菌と同定された。同定した腸球菌株について薬剤感受性試験を実施した結果、河川流域からVREが0.9%の割合で検出された。次に、PCR法によって、主要なvan遺伝子の保有を調査した結果、vanC1とvanC2/C3遺伝子を保有する腸球菌が検出され、vanC2/C3を保有するVREは全ての調査地点から検出された。さらに、エリスロマイシン、シプロフロキサシン、およびテトラサイクリンといった汎用性の高い抗菌薬に耐性を示す腸球菌株が高い割合で検出された。日本の地方都市河川において、VREや薬剤耐性腸球菌の存在が明らかとなった。 水環境中における耐性遺伝子の伝播実験は、伝播する可能性(伝播ポテンシャル)の評価方法の基礎的検討を実施した。伝播ポテンシャルは、薬剤耐性株(供与菌)から薬剤非耐性株(受容菌)に耐性遺伝子が伝播し、受容菌が耐性を有した株(接合完了体)を計数することで評価した。本年度は、供与菌株と受容菌株の選定、受容菌株の作成、ならびに臨床分野で実施されている伝播実験(Filter mating法、Broth mating法)を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
薬剤耐性腸球菌の拡散と分布調査は、宮崎市内を流下する一級河川の八重川の上流から下流に至る3地点を対象として、計3回実施した。腸球菌選択培地から単離した700株について菌種同定試験を実施し、333株が腸球菌と同定された。同定した腸球菌株について薬剤感受性試験を実施した結果、河川流域においてVREが0.9%の割合で存在した。次に、PCR法によって、主要なvan遺伝子の保有を調査した結果、vanC1とvanC2/C3遺伝子を保有する腸球菌が検出され、vanC2/C3を保有するVREは全ての調査地点から検出された。さらに、パルスフィールドゲル電気泳動法を使用して菌株の遺伝子バンドパターンの類似度を評価した結果、vanC型のVREは非常に多様化しており、複数の汚染源から流入していることが示唆された。その他にエリスロマイシン、シプロフロキサシン、およびテトラサイクリンに耐性を示す腸球菌株がそれぞれ、62%、56%、および13%の割合で存在した。 耐性遺伝子の伝播ポテンシャルの評価方法の基礎的検討を行った。供与菌は、外国産食肉から単離したvanAを保有したVREを使用した。受容菌は、水環境から単離した3種の薬剤感受性腸球菌株に、薬剤耐性マーカーを導入した突然変異株を作製した。伝播実験は、Filter mating法とBroth mating法で実施した。伝播率は、受容菌に対する接合完了体の比によって評価した。Filter mating法を用いて異なる3種の腸球菌株に対するvanAの伝播率は、10-7~10-10であった。水環境に存在する腸球菌に対してvanAの伝播が確認された。Broth mating法を用いたバンコマイシン耐性遺伝子の伝播実験では、全ての腸球菌種において伝播は確認されず、液相で菌体が分散している状況では、本研究で用いたVREのvanAが伝播する可能性は低いと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2年目)は、主にVREのゲノム解析と水環境を模擬した伝播ポテンシャルの評価を実施する。 都市河川流域を対象とした薬剤耐性腸球菌の拡散と分布調査については、当初目的とした内容を達成する状況にある。これまで得られた研究成果は、国際雑誌Water Researchへの投稿に向け、準備段階である。 VREのゲノム解析については、供与菌として使用したVRE株の全ゲノム解析を実施する予定である。昨年度にVREの全ゲノムデータを次世代シーケンサで取得しており、本年度はゲノム解析を実施する。ゲノム情報に加え、プラスミドやトランスポゾンなどの伝播機構に関する情報の取得や薬剤耐性遺伝子のコード領域の探査を行う。加えて、河川から単離した多剤耐性腸球菌も同様に行う予定である。また、受容菌として使用したE. faecalisとE. faeciumについても、ゲノムデータを取得済みであり、今後解析する予定である。 耐性遺伝子の伝播ポテンシャルの評価方法を確立し、様々な水環境を模擬した実験を実施する予定である。環境中での伝播を明らかにするため、滅菌した河川水、活性汚泥、河川底泥など曝露条件を変化させ、伝播ポテンシャルを推定する。また、フィルター上で耐性遺伝子の伝播が確認されたことから、菌体が集積する環境を人工的に作成し、温度や環境条件等を変化させて耐性遺伝子が伝播する環境を明らかにする。各条件におけるVREの伝播ポテンシャルを取りまとめ、環境中で耐性遺伝子が伝播するか否かを総合的に判断する。
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Research Products
(6 results)