2015 Fiscal Year Annual Research Report
対称性を活用した遷移金属カルコゲン化合物における電子機能の開拓
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15J11901
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
矢野 力三 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 単結晶育成 / 異方的物性測定 / 遷移金属カルコゲナイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,対称性を活用した物性開拓や,物質探索を行い,初年度では特に4つの化合物の単結晶育成の確立と特性の解明を行ってきた.まず当初の計画案で中心的に記載した,ACrX2 (A = Cu, Ag; X = S, Se)というスピンの対称性の破れに加えて,空間の対称性も破れている物質の単結晶育成法の詳細を開拓し,これらの物質電子相関の強い金属から誘電性と磁性を持ち合わせた絶縁体まで,多彩なる特性を持つことを明らかにした.特に,高温で熱電材料として実用化の目安であるZT = 1をもつと報告されているAgCrSe2が,本質的に高い熱電性能を持つことを単結晶でも再現でき,この物質が高温熱電材料として有望であることを裏付けた. 次に,この物質の派生物質であり,局所的空間対称性の乱れが導入された不定比性化合物AgxCr2+yX4 (X = S,Se)の大型単結晶育成に成功し,その特性を初めて解明した.この導入された乱れによって,この物質は代表的な熱電材料であるBi2Te3をも凌駕する極めて低い熱伝導率をもつことが明らかとなり,室温以下までは前述したAgCrSe2の約倍の熱電特性を持つことを発見した.これによって,高温においても,実用化の目安を倍をいく高温熱電材料として期待できることを明らかにし,基礎物性について論文にまとめ,投稿した. 3つ目に,ACrX2を基にした合成経路から,近年脚光を浴び始めているCrSe2や,数十年間誰も合成できなかったCrS2の単結晶を得ることにも成功した.これらについては,例のほぼない興味深い秩序や状態を持つ可能性があり,現在も引き続きその特性の解明中である. そして最後に,対称性の崩れた擬一次元鎖をもつCrPS4に着目し,異方的な物性測定を行った.これによって比較的低磁場の約1Tで,スピンが急激に向きを変えるスピンフロップという現象を起こすことを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初の計画案では,一年目においてACrX2のキャリア制御等と関連化合物の単結晶育成を予定していたが,ACrX2のキャリア制御についてはおおよそ考えられる試みについては終了しており,他方で関連化合物の単結晶育成については,今年度であらたに3つの化合物の単結晶育成に初めて成功している.そしてこれらはいずれも基礎学術的にも,応用物性的にもとても興味深い物質であると分かった.特に,これらの特性を明らかにするうえで,熱電特性の評価は重要な性能評価といえるが,一般的に,単結晶試料の様な1mm程度の小さい試料での熱伝導率測定は難しいという課題があった.本研究では,この測定が可能になるレーザー加熱を用いた熱伝導率測定システムを開発することもできた.これによって今後の研究の進展も加速するものと期待できる状況になった. このように実験的には大きく進展したと言えるが,その反面,これらの詳しい結晶育成の手法などについての論文執筆活動が少々滞っている.そのため,これらをより論文としてまとめられるように,詳しい条件等を詰めていき,論文投稿へと順次移行していきたいと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では対称性を活用した物質開拓を行っているが,これまではAgCrX2を中心とした物質開拓を行ってきた.これまでに得られた物質のうち,これまでは室温以下の低温測定を行ってきたが,熱電特性などの物性ではさらに高温領域での物性測定が必要不可欠であることがわかった.これをうけて,今後は室温以上での物性測定をおこなっていく.また,物質合成という点においては,Aを引き抜くことで合成に成功したCrX2についてはその合成方法にも安定して合成するためにまだまだ詰める必要のある合成条件の確立をさらに十分行う必要がある.そしてその結晶を用いて,この物質の本質を理解するための基礎物性測定を数多く行う必要がある.そのためにも,共同研究を行い,この物質の結晶構造や価数などの基礎的な構造決定や,電子状態を直接観察するような測定が不可欠である.また一方で,これまで得られた物質に対するキャリア制御をより精密に行うことによる高性能化や,新規物性開拓も同時に行う必要があると考えている.このように,今後の方針の一つの柱としては,これまで得られた結晶に対する更なる物性測定と,キャリア制御による物性開拓を行っていく. また他方で,これまでの物質系から得られた知見を基にしてさらに新しい理想的な母物質の開拓にも取り組んでいく.この方針としては,これまでは軽元素からなる物質を対象にして研究を行ってきたが,近年重元素に由来する相対論的効果を考慮した物性開拓が目覚ましく進展している背景を受け,これまで行ってきた対称性の観点を大切視しつつも,重元素を用いた物質開拓を行っていく.
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