2015 Fiscal Year Annual Research Report
時間分解赤外分光による遷移金属錯体の光化学過程の解明
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15J11908
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
向田 達彦 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 時間分解赤外分光 / 光エネルギー変換 / 光化学過程 / 遷移金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属錯体の準安定な光励起状態が引き起こす光化学反応や電子移動反応などの光化学過程を活用し、様々な光エネルギー変換系が合成されている。本研究は、時間分解赤外分光によって光化学過程を実時間観測することでそのメカニズムを明らかにし、光エネルギー変換系の高機能化につながる設計指針を確立することを目的として行っている。 前年度までの研究で、もっとも基礎的な遷移金属錯体の一つである[Ru(bpy)3]2+を対象として時間分解赤外分光測定を行い、光エネルギー変換系の動作効率や耐久性に影響を与える励起状態であるにもかかわらず、分光学的に直接観測された例のない3(d-d)励起状態を直接観測することに成功した。本年度は、この研究を発展させるため、5(d-d)励起状態が最低励起状態である[Fe(bpy)3]2+の時間分解赤外分光測定を行った。その結果、5(d-d)励起状態の詳細なスペクトル測定と量子化学計算による基準振動モードへの帰属に成功し、特定の振動モードに帰属されるピークがd-d励起状態を観測する際の良いプローブになることを見出した。さらに、他の励起状態では観測された例のない励起状態が光励起状態ダイナミクスに含まれる可能性も見出した。 新たに、CO2還元光触媒系において良い光増感剤として働くことが知られているリング状レニウム多核錯体の基礎的な光物性を明らかにすることを目的とした研究を開始した。時間分解赤外分光測定ならびに二次元赤外分光測定を行った結果、レニウムユニット間の励起エネルギー移動の速度の実時間観測に成功し、エネルギー移動のメカニズムに関する知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
d-d励起状態の性質とその観測に使用できる振動モードや、リング状レニウム多核錯体のユニット間励起エネルギー移動のメカニズムなど、新たな光エネルギー変換系の設計において有用な情報を多数得ることに成功した。また、国内外の合成研究者と密に連携し、最先端のサンプルを対象として研究を進めており、残りの2年間も同様の成果を期待できる。以上の事から、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、光エネルギー変換系を単純化した遷移金属錯体を対象として研究を行ってきた。今後は、実際に光エネルギー変換機能を有する遷移金属錯体を対象として時間分解赤外振動分光測定を行い、その光化学過程を明らかにすることを目指して研究を進める計画である。具体的には、水中で光触媒的に水素を生成する白金錯体や、工業的に有用なポリマーを光触媒的に合成するルテニウム錯体などを対象とする予定である。
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Research Products
(5 results)