2015 Fiscal Year Annual Research Report
社会―生態システムの気候変動に対する脆弱性評価:水環境と資源管理形態の将来予測
Project/Area Number |
15J12081
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
柿沼 薫 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 干ばつ / 降水量変動性 / 遊牧民 / 持続的資源管理 / 気候変動 / 適応策 |
Outline of Annual Research Achievements |
乾燥地は将来の気候変動によって干ばつ頻度の増加が懸念されており、気候変動が資源利用へ与える影響の評価と、持続的資源管理を実現するための適応策の提案が早急の課題である。本研究では、気候条件と資源管理システムのパターンの関係の実証的解明を通じ、モンゴル放牧草原の気候変動に対する資源管理上の適応策へ貢献することを目的とする。当該年度において、本研究は文献レビュー、現地調査を主に実施し、モンゴルの社会―生態システムの脆弱性に関して明らかにしてきた。 まず、文献レビューを通じて、モンゴルの放牧草原を対象に、過去50年の気候と植生のトレンドについて既存研究を整理した。モンゴルではこれまで国全体での年間平均気温の増加、地域的に降水量の減少が報告されていた。植生はここ30年において減少傾向であった。 次に、気候条件と資源管理形態の関係を実証的にあきらかにするため、降水量の変動性の傾度に沿って、遊牧形態や災害時の対応に関する聞き取り調査を実施した。4県を対象に、県、市、村、国レベルの土地利用担当者を通じて、干ばつ時の他地域への移動状況、そして受入状況について調査を実施した。その結果、降水量の変動性が高いドントゴビ県では頻繁に遊牧民が県外へ移動する一方、変動性の低いブルガン県やトゥブ県は県内へ留まる傾向があった。これらの結果は、降水量の変動性によって資源管理形態が異なる可能性を示していると考えられた。 人口統計データと聞き取り調査の結果、雪害以降モンゴルでは中央部から東部に位置する4県で人口が増加傾向にあることがわかった。さらに、西部および南部地域の遊牧民が中央部へ移動していた。これらの結果から、災害などの自然条件が引き金となり、遊牧民の大規模な移動を引き起こす可能性が考えられた。以上の成果は、国内・国際会で発表しており、国際誌への投稿論文として2報まとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
モンゴルにおける社会―生態システムの脆弱性に関する文献レビューから、災害(干ばつ・雪害)時の遊牧社会の脆弱性に関して現地調査など幅広く研究に取り組んだ。その結果、モンゴルにおける災害時の対策を遊牧民世帯から村、郡、国レベルで整理することができた。とくに、2009年の災害以降、西部、南部の遊牧民が中央部へ大規模に移動している傾向を捉えることができた。これは、気候変動が人の移動を促す可能性を示しており、気候変動研究にとって重要な知見を提示したといえる。この成果を、国際学会(American Geophysical Union)およびシンポジウム(MAHASRI)、国内学会(日本生態学会)にて発表しており、現在国際誌への投稿へ向けて2報の論文を執筆中である。さらに関連した研究で、共著論文1報、著書(分担執筆)が発表、そして共著論文1報が国際誌へ投稿中、1報が改訂中である。以上のことから、今年度の申請者の研究は大きな進展があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
気候条件と資源管理形態の関係を定量的に検証することを目指す。このため、これまで得られた遊牧民の移動パターンに関して、自然科学的および社会科学的要因の影響を検証する。具体的には、協調行動を間接的に示す干ばつ時の受け入れに関する協定の数や受け入れ実績,移動距離や頻度を目的変数に,降水量の変動性,降水量,気温、植生量などの自然科学的要因や、人口、都市からの距離など社会的要因を説明変数に入れた統計モデル(ランダムフォレスト、階層ベイズ、一般化線形混合モデルなどを想定)を構築する。これらの結果から、資源管理形態(協力的、排他的)と自然科学的条件の関係、遊牧民の大規模移動に関わる自然科学的・社会的要因の解明などが期待される。 さらに、CMIP5で公開されている気候モデルを用いて将来のモンゴル全土の降雨量や変動性、そして利用可能な水量を数十年単位をめどに推定する。そして、資源管理システムの形態に関わる気候の変数の値と推定された将来の降水量や水分布の値を用いて、両者の値が将来ずれる地域を特定していく。また降雨や水の量と人々の移動の関係に基づいて、将来の降雨や水分布が人々の移動をどのように変化させるかを予測していく。以上の作業から、資源管理システムの形態と気候の変数にずれが生じる地域や、人々の集中化が起こりやすい地域を、気候変動に対する脆弱性が高い地域として抽出していく。
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