2016 Fiscal Year Annual Research Report
重力波検出器KAGRAを用いた超新星爆発メカニズム解明に向けた研究
Project/Area Number |
15J12135
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
横澤 孝章 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 重力波 / 超新星爆発 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年3月から4月にかけて、KAGRA検出器はiKAGRAと呼ばれる常温・簡易化された設計における試験観測を実施した。その際に、検出器制御系を通じて鏡を揺らすことにより擬似的に重力波を注入するテスト、通称”ハードウェアインジェクション”を行った。申請者はハードウェアインジェクションの実施に向けて、波形注入手法の確認や注入波形の準備を行った。得られたハードウェアインジェクションデータをバンドパスフィルタやマッチドフィルタを用いて解析を行い、誤差の範囲内で正しく重力波信号較正ができていることを確認することができた。この経験をもとに、将来のKAGRA観測におけるハードウェアインジェクションの計画を率先して行なっている。 申請者は重力波信号の較正作業の中のデータ入出力に関する部分で用いられる回路やADC・DAC回路の伝達関数測定手法の開発や、伝達関数の個体値と環境依存性が及ぼす較正への評価などを行った。さらに検出器制御に用いられているコンピュータの時間同期やその精度の測定、フィードバック制御中に生じる時間遅れや位相遅れを測定し重力波信号の精密較正に向けた準備を行っている。 申請者は、超新星爆発理論グループ、ニュートリノ観測グループ、重力波データ解析グループが協力してメカニズム解明に向けた研究を推進することを提案し、独自の解析グループを立ち上げ議論を行ってきた。 結果として、SASI(Standard Accretion Shock Instability、衝撃波面の不安定性)からの特徴的な重力波信号とニュートリノ信号摘出のために、Δ-Σ変換を応用したフィルタを作成し、その有効性を定量評価することに成功した。この結果は国際会議でも発表しており、論文にまとめているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
iKAGRA試験観測データを解析することにより解析手法の確立を行えただけではなく、重力波検出器に対する知識や貢献を多く行うことができた。特に、重力波信号の較正の研究は今後の重力波天文学を展開する上で非常に重要な役割を担っている。2015年に初検出されたブラックホール連星からの重力波信号解析において、重力波到来方向の決定精度に重力波信号較正精度が大きく関わっていることがわかっている。さらに今後の重力波ネットワークにKAGRA検出器が加わった際に信頼できる重力波信号の提供というのは極めて重要な課題となっている。この課題に向けてハードウェアインジェクション解析の手法の確立やフィードバック制御に使用するアナログ回路の伝達関数の測定の貢献はとても大きい。 さらに、Hilbert Huang変換と呼ばれる一つの時間-周波数解析の実データに対する有効性を評価することもできている。Hilbert Huang変換は、一種のハイパスフィルタである経験的モード分解と、Hilbert変換を用いたスペクトル解析の組み合わせによって行われる。先行研究では、シミュレーションで作成した検出器ノイズに信号を注入して解析手法の検証が行われてきた。申請者は共同研究者と協力して実データに対するHilbert Huang変換の実データに対する時間周波数解析の有効性を評価した。上記したハードウェアインジェクションデータを解析することによって、非ガウス、非定常、ラインノイズを含む実データに対してもHilbert Huang変換の時間周波数解析の有効性を実証し、その解析精度を定量的に評価することができた。現在、超新星爆発信号に対するHilbert Huang変換の時間周波数解析の検証を行っているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
KAGRA検出器は、2018年度末にbKAGRA phase1という試験観測を計画している。これは低音鏡を用いた観測であり、世界で初めての試みである。そのため、これまでの世界の検出器では露見しなかった課題が多数生じることが予測される。その課題に立ち向かい、精度の良い観測を行い解析を行うために、KAGRA検出器が建設されている岐阜県飛騨市に積極的に赴き現地の方々と課題の共有や解決策の模索、データ解析への影響の評価を行っていきたいと考えている。さらにbKAGRA phase1に向けて重力波信号の較正手順の確立というのも重要な研究課題となっている。KAGRA検出器を構成する様々な研究グループと情報を共有し検出器の理解を深めることが精密較正に向けて重要な役割を果たす。 さらに、超新星爆発の先駆的研究は現在世界でも盛んに行われており、重力波とニュートリノと電磁波観測を同時に行う"マルチメッセンジャー天文学"の研究会が多く開催されている。申請者は研究会に積極的に参加し、参加者とのコミュニケーションや議論をすることによりこれまで行われてこなかった新たな一面からのメカニズム解明に向けた解析手法の確立を引き続き目指していく。それと同時にHilbert Huang変換を用いた超新星爆発信号の解析も推進していくことを計画している。Hilbert Huang変換はフーリエ変換などでは生じてしまう時間-周波数間の不確定性原理を考えなくてもよいという利点を持ち、時間とともに振幅と周波数が変化する信号の解析に適していると言える。超新星爆発信号解析においてもコアバウンス直後の複雑な波形の重ね合わせで較正されているフェーズの解析でこれまでになかった情報摘出手法が確立できることを期待している。
|
Research Products
(9 results)